泉心堂治療院

せんしんどうちりょういん

カビ餅とお灸

2021年01月20日 | Weblog

私が大学1年生の時の話です。

当時、祖父母の家には餅つき機があったので、

祖母は時々切り餅を作り、私の下宿に送ってくれることがありました。

たしか6月ごろの話だと思いましたが、

ある休日、朝食にしようと冷蔵庫を開けると、

中はほとんど空。

残っていたのは祖母の切り餅だけでした。

その切り餅を見ると、

赤やら青やら黄色やら信号機のようにカラフルなカビだらけ。

しかし他にめぼしい食べものもなく、

近所にコンビニや商店もないような田舎だったため、

仕方なく流水でカビをこすって洗い、

鍋で煮てカビ臭いのを我慢して何とか胃袋に押し込みました。

それからトレーニングジムに行くため家を出て駅に向かい、

列車に乗って20分くらい経ってからでしょうか、、、

なにやらみぞおちの辺りがムカムカしはじめ、

目的の駅につくころには

こみ上げる吐き気でトレーニングどころではなくなり、

引き返して下宿に帰ることにしました。

吐き気と闘いながら何とか下宿に帰り、

吐けば楽になるかと思ってトイレに行ってみたものの、

胃の中身はすでに消化してしまったのか、

大量のだ液が流れ出すばかりで吐き出すこともできません。

布団に横になってひたすら苦しみに耐えるしかない状態。

ついに寒気まで始まってしまいました。

 

それから何時間経ったでしょうか・・・

偶然にも夕方にA先輩が私の部屋に立ち寄ってくれました。

(前回の記事でご紹介したA先輩です)

私が事情を話すと、A先輩は私にお灸の道具を出すよう指示をしました。

私がお灸の道具を出すと、今度は靴下を脱いで足の裏を出すようにとのこと。

吐き気をこらえつつ言われたとおりにすると、

足の人差し指の腹の一番とがった部分に墨をチョンと塗ってから、

その指を折り曲げて墨が足の裏の皮膚に当たった部分にお灸をすえ始めました。

 

お灸はモグサをひねって米粒くらいの三角錐にの形にして、

ツボにおいて線香で火をつける、直接灸の方法です。

最初は全然熱さを感じませんでした。

同じツボにどんどん重ねてお灸を繰り返します。

そうすると徐々に温熱感を感じ始め、

吐き気が軽くなってきたような気が、、、

最後にツーンとキリで刺されたような熱痛を感じた時には

みずおちの辺りのムカムカがスーと軽くなって、

寒気も止まってしまったのでした。

それから仕上げに背中の胃腸のツボにお灸を軽くしておしまい。

その日限りですっかり良くなってしまったのでした。

 

ちなみに足の裏のツボは「裏内庭」といいまして、

食あたりの灸ツボとして知られています。

それでもこれだけ劇的に効いたのには正直驚きました。

二度と味わいたくない苦い経験ですが、

ツボとお灸の効果を身をもって経験できた貴重な思い出です。


A先輩とB先輩

2021年01月13日 | Weblog

私が針灸を学んだ大学は、3年次終了時に国家試験を受け、

4年次は有資格者として実習などをこなすというカリキュラムでした。

 

A先輩は私が1年生の時の4年生で、同じ柔道部、同じアパートに住んでいました。

入部早々膝を傷めた私にA先輩は鍼灸治療をしてくれました。

ちなみにそれが私が人生で初めて受けた鍼灸でした。

(そのときのエピソードはホームページ内で紹介しております)

A先輩には膝だけでなく、腰痛、肩のケガから食あたりまで、

本当に色々とお世話になりました。

そして、何よりも治療は気持ちよく、

心地よい刺激で心も体もスッキリできる癒しのひと時でした。

(食あたりの治療についてはまた別の機会にご紹介いたします)

 

ところで、私が針灸を学んだ大学は、京都丹波地方の片田舎にあり、

私もその近くに下宿しておりました。

朝晩の気温差が大きくて濃い霧がよく発生する土地で、

太平洋の海沿いに生まれ育った私にはどうも慣れない気候でした。

そのためか、1年生の秋に私は風邪を引き、

風邪を甘く見ていたこともあってこじらせてしまい、

激しい咳と、会話もできないほどの呼吸困難に悩まされることになってしまいました。

もちろんA先輩も私を心配して暇を見つけては鍼灸治療をしてくれました。

おかげで1カ月ほどかけて徐々に4分の3ほどは改善したように思ったのですが、

どうもあと一歩が治りきらないのです。

 

そんなある日、やはり同じ柔道部の4年生のB先輩が

鍼灸道具を持って訪ねてきてくれました。

ちなみにアパートが別ということもあり、

それまでB先輩の鍼灸は受けたことはありませんでした。

 

B先輩は「中国針」を取り出すと、私の肘のツボに「ブスッ」

おもわず「うっ」と声が出てしまいそうなほどの鈍痛。

そして足のくるぶしの上のツボにも「ブスッ」

かかとに抜けるような強烈な刺激感。

 

他にも「ブスッ」「うっ」「ブスッ」「うっ」と中国針を打たれ、

その針の頭の部分にモグサ(灸)をくっつけ点火。(灸頭鍼という手法)

それまでA先輩の心地よい鍼灸にすっかり慣らされていた私には、

今でも鮮明に思い出せるほど強烈な体験となったのでした。

 

そしてその翌日、なんとびっくりです。

あれだけ悩まされていた呼吸困難がほとんど治まってしまったのです。

いったい何が起こったのだろう⁇という感覚でした。

それから3日後くらいにB先輩は念のためともう一度やってきて同様の治療をし、

それで私の咳と呼吸困難はすっかり治ってしまったのでした。

 

ここで私が述べたいのはB先輩の方がA先輩より優れている、

中国針灸の方が優れているということではありません。

まず、A先輩には日頃からケアをしていただいて絶大な信頼がありました。

あの心地よい鍼灸は今でも忘れることができません。

もしどちらか選ぶならば、私が普段受けたいと思うのはA先輩の鍼灸です。

食あたりになったときも1回で治していただきました(後日投稿します)。

 

B先輩の中国針灸は確かに効きました。

停滞した状況を打破する起爆剤となって

病気の根っこを引っこ抜いたという感じです。

しかし、よほど困った状態でなければ遠慮したいかな~

というほど強烈でした。

 

A先輩の鍼灸を「柔」とするならB先輩のは「剛」といえるかもしれません。

結局は「柔」と「剛」、それぞれを状況に応じて使い分けられるのが

最も好ましいのかもしれません。

 

ちなみにA先輩、B先輩ともに現在開業され成功されております。

もちろん絶えず研究・工夫をされているので、

今もこの記事のままの内容というわけではありません。

 

学生時代の懐かしい思い出のひとつでした。


2021年を迎えて

2021年01月02日 | Weblog

2021年を迎えました。

本年、私は鍼灸師免許を取得して25年の節目を迎えました。

恩師の郭先生は、常々「万人同治」を意識しなさいと口にされておりました。

「万人=多くの人」を「同治=同時に治す」という意味で、

ある「一人」を治療するに際して、

その一人からつながる「多くの人」を意識しなさいということですね。

例えば、誰かが健康・元気になれれば、

それによって家族や友人など関わりのある人々にもよい影響があるかもしれない。

一人で治療できる人数には限りがありますが、

一人を治療することで、大勢の人に良い影響があるかもしれないのです。

つまり、目の前の「一人」から多くの人々へ、道がつながっているのです。

その道のスタートラインが目の前の「一人」であることを忘れずに向き合いなさい

という教えなのだと私は解釈しております。

 

2020年は当院のような治療院の役割というものについて深く考えさせられる1年となりました。

ご存じのとおり、新型コロナウイルス流行によって生活スタイルが一変してしまい、

思わぬ体調不良に悩まされた人も多かったと思います。

心と体のバランスを保つことは、平均台の上を歩くようなものだと実感させられました。

当院のような小規模な治療院は医療のすき間を埋めるような存在であると思います。

2020年より「道の医学」と「無用の用」についてをテーマにブログ投稿させていただきましたが、

心と体のすき間、医療のすき間、それぞれを埋める「無用の用」の存在として、

目の前の「一人一人」に向き合わせていただきたいと思います。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。