泉心堂治療院

せんしんどうちりょういん

ある春の日に・・・

2019年04月24日 | Weblog
もう15年以上も前の話になります。

ある日、五十肩で毎週来院されていた50代の女性患者さんがとても浮かない顔をしながら来院されました。

あまりにも浮かない表情だったので、思わず「どうかされたのですか?」と声をかけてみると、

「実は一昨日から孫(10カ月くらいの男の子)の喉の奥にできものができて痛がり、飲食物をほとんど飲み込むことができない。今も病院に連れて行ったけど、脱水状態が心配だから明日改善がなければ点滴をするしかないと言われた。」とのこと。

私もとても気の毒に思い、その日は時間も空いていたので

「私でお役に立てるどうか分かりませんが、後でお孫さんの様子をみさせていただけませんか?」

と急遽往診をすることになりました。

患者さんのご自宅につくと、まずはお孫さんの様子診させてもらい、

あるツボの状態を確認してから私は用意しておいた新品のティースプーンを取り出すと、

それを氷水で少しだけ冷やし、そのスプーンでそのツボをなでるようにして施術を行いました。

そのツボとは「大椎」と呼ばれるツボで、場所は頚椎と胸椎の境目部分、すなわち頭を前に倒すと首と背中の境目あたりの背骨が一番出っ張るあたりにあるツボです。

男の子はヒヤッとしたものをいきなり首筋に当てられてびっくりしたのか、声を上げて泣き出してしまいましたが、

私はスプーンを時々冷やしななら、首の後ろの頚椎部分を上から下に「大椎」の辺りまで皮膚の粗熱をとるような要領でなでる施術を続けました。

そのうち、男の子の鳴き声が甘えたような感じに変わったので、施術を止めて湯ざましを与えてもらうと、一口、二口と飲み込むことができるようになり、お母さんに別室で母乳を与えてもらうと順調に飲みはじめ、そのまま寝入ってしまったので、翌日まだ症状が残っているようであればまた施術すると伝え患家を辞去しました。

翌日連絡があり、男の子は普通に飲食できるようになり、すっかり元気になったとのこと。

再度の施術の必要はなしということになりました。

春になると時々思い出す出来事でした。







突然に・・・

2019年04月17日 | Weblog
「これまでの人生の中で最高のコンディションを維持できています。」

I さん、男性、70歳。

5年ほど前、腰椎椎間板ヘルニアからひどい坐骨神経痛になり、紹介されて来院。

当初は歩くのもやっとの状態だったが、継続して来院され、回復状況に応じてプールでの水中ウォーキングでリハビリ。

数カ月後には歩行はもちろん、犬の散歩や水泳ができるまでに回復。

それからも元々あった腰痛や時々気になる膝の痛みを改善させたいからと継続して来院。

回復状況に応じ週1回→2週に1回→3週に1回と来院間隔を伸ばし、

2年ほど前からスポーツクラブでスカッシュに挑戦され、楽しまれていた。

昨年は4週に1回のご来院で順調な経過。

そんな状況で昨年は来院の度に冒頭のお言葉をいただいていた・・・


今年、真冬のある日、ご予約の日の前日に奥様よりお電話をいただき、

「4日前に主人が突然亡くなりました」と・・・

あまりに突然のことでこちらも頭の中が真っ白になりつつ状況をうかがうと、

いつものようにスポーツクラブに行ってスカッシュで汗を流し、

機嫌よく晩酌しながら夕食をとり、

寒いからお風呂に入って温まってから寝ると言って入浴されている短い間のことだったとのこと。

あまりのショックでそれから何をお話したのかよく覚えていないです・・・


現代の感覚から言いますと、70歳はまだまだ「若い」です。

体調も絶好調で人生を楽しめていたのであればなおさらです。

「最高に幸せじゃないの」と同年代の母は言いますが、確かにそうかもしれません。

むしろ自分もそうありたいと漠然ながら思います。

しかしながら私でさえ相当のショックを受けたのですから、

ご家族のお気持ちを察するといたたまれなさを拭い去ることは当分できそうにありません。


冒頭のお言葉は治療家としていただく最高の褒め言葉だと思っています。

ただ痛みを取り除くだけでなく、充実した人生・老後のサポートをさせていただけたのですから。


中国医学の古い書物には

「未病を治すのは上(名人)。病気のなり初めを治すのは中。病気になったのを治すのは下。」

と医者のレベルについて述べられています。

亡くなられたのは突然のことだったとはいえ、

最後に来院された時に何か兆候をつかむことはできなかったのか・・・

上までいかずとも、せめて中レベルにはなりたいと思っておりましたが・・・

考えすぎでしょうか?

いえ、考え続けるのが私なりのご供養だと思います。


I さんからは本当に多くのことを学ばせていただきました。

ありがとうございました!