昨夜も仕事を終え、寝ているあんを起こして、夜の散歩に出かけた。
少しでも違う道を通ろうと、いつもクリーニング屋さんのところを曲がるのだが、石坂の家の前を通り、少し大通りを歩いた。
石坂の家の近くにあるお地蔵さんの隣の草むらであんはおしっこをした。
どうも草むらとか、土のあるところをあんはトイレにしやすいらしい。
あんのトイレの場所はだいたい決まっている。
決まったところでちゃんとトイレをしてくれると嬉しい。
ある意味、あんが健康のしるしのように思えるからだ。
おしっこしてから、同級生のチエコのマンションの前を通ると、なんとそこでタヌキと出会った。
マンションの下を通る駐車場に向かうところにタヌキがいた。
「おぉ!あん、タヌキだよ。タヌキさんだよ」。
自分も腰を下ろして、あんに言った。
タヌキは身動きせず、あんと自分をしばらく見ていた。
多摩川や山の方では今までタヌキを見たことはあったが、こんなところにタヌキが出るなんて、今まで見たことがなかったが、近くの畑のものを食べに降りてきたのかどうか分からないが一匹でいた。
そのタヌキに関心していると、タヌキは駐車場の方に逃げていった。
どうせもう見えないだろうと一瞬ちょっと迷ったが追いかけてみた。
駐車場の方まで5メートルほど行くと、やはりタヌキの姿はなかった。
がしかし、あんには分かっていた。
またマンションの端の方から大通りに出る方に行くと、そこにタヌキはいた。
さすがにあんには分かるのだと感心した。
タヌキは少し立ち止まり、こっち見ると、また走り出し大通りを渡って向かいのマンションと家の間を走り抜けていき見えなくなった。
あんはしばらくあと追いかけたくて仕方がなかったが大通りがあるので「ダメ!」と伝え、我慢してもらった。
それでも、タヌキに会えるなんて、何か嬉しい感じがした。
あんは身体をブルブルさせて、また歩き出した。
チエコんちのマンションの角を曲がると、駅の方から買い物袋を持った女性が歩いてきた。
あんはその女性を見ているので、少し立ち止まると、その方もあんに手を差し延べてきた。
「良い子だね~」そう言ってあんの頭を撫でてくれた。
「まるちゃんですか?」
「いえ、あんです」
「そうですか、まるちゃんじゃないですんか?あんちゃんですか。良い子ですね~」
「ありがとございます」
まるちゃんは、そこの近くに住み黒柴でまだ八ヶ月ぐらい子である。
夜だったので、あんは犬間違いをされた。
でも、これであの方もあんのことを覚えてくれたと思う。
「いま、そこでタヌキを見たんです」と喉元まで出てきたが、なぜかをそれは言わなかった。
見ていないと信じてもらえないと思ったのか、またはあんだけ覚えていてくれたら良いと考えたのかもしれない。
あんは「良い子」と言われ嬉しかったらしく、それからトコトコと胸を張るようにして歩いた。
あんが褒めらると嬉しくなる自分もあんにならって胸を張るようにして歩き出した。
トコトコ、トコトコ。