あんは小さい頃からずっと石坂のことが大好きである。
最近は少し大人になってきているのだろう、小さい時と違って誰にもヒョコヒョコと近寄り撫でてもらいことも少なくなってきた。
それでも、たまにすれ違う人に「可愛い」と撫でてもらうこともある。
この前は夜の散歩で通りすがりの人にあんが撫でてもらっていた時に、あいちゃんが来て、あいちゃんのお母さんは言った。
「良いですね、あんちゃんは可愛いから。うちのあいちゃんはまず知らない人に近寄らないんですよ」
「そうですか」あんを褒められて、ニコニコで答えた。
知らない人に撫でてもらう時のあんは静かにしている大人しいあんなのである。
それは他人の無償の愛を受け容れられる優れた特性を持っている証しである。
あんにとっても良いし、撫でている人も癒やされる、それを見ている自分も嬉しくなる愛の現われがそこに生まれているのである。
こうした大人しいあんではあるが、大好きな石坂の場合はちょっと違う、もう「石坂」と言う単語を聞くとレーザーのように両耳を立て、石坂を探し歩き出すのである。
そして、石坂に会うなり、飛び着き、石坂の顔をペロペロし、尻尾はフリフリである。
ほんとうに感心するほどよくペロペロするのである。
この前の夜などは御代りもした。
まず石坂宅で石坂ペロペロしてから、大通りを渡り、いつものコースを歩き、ウンチをして帰ってくると、家のとは逆の方向の石坂宅にまっしぐらにまた歩き出した。
その日深夜近くになっても車をいじくっていた石坂にまた会いに行ったのである。
そして、さっきもペロペロしたのに、またペロペロするのであった。
「石坂は美味しいのか、あん?」
「美味しいのかな?オレ・・・」
「いや、チョコの味がするんだよ」
「そうね、チョコの味がするんだろうな」
チョコは甘いチョコではなく、石坂の飼い犬のミニチュアダックスのチョコの味がするのであった。
もちろん、石坂があんを可愛がってくれることもペロペロの訳でもあろうが、それにしても、あんは石坂をペロペロする。
そして、その後はチョコがあんの味がまだある石坂の顔をペロペロ返しをするのであろう。