Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『わらの女』カトリーヌ・アルレーのミステリ

2016-07-10 14:34:27 | ミステリ小説
  
        

このミステリが発表されたのは1956年です。

それまでミステリの常識として書かれていなかった内容でこの本は書かれました。

少し整理して話しますと、物語の背景は大戦後のドイツのハンブルクから始まります。 爆撃で両親や友人、家や財産などすべてを失くした34才の独身女性ヒルデガルデ・マエナーは翻訳の仕事をしていました。

しかし、安い賃金での仕事は食べるものや家賃の支払い、どうやって新しい靴を買おうとかなどと頭を悩ませる毎日で、何も考えずにいられるのは月に十日ほどしかないという生活です。

そんなヒルデガルデ・マエナーには一週間に一度、金曜日に新聞に載る求縁広告を見るのが楽しみでした。 日々の暮らしにウンザリし、未来も何も考えられない今の生活に別れを告げられる出会いを探していたのです。



こんな打算的な女ヒルデガルデですが探していたピッタリの案件に出会います。<莫大な資産アリ。なるべくはんぶるく出身の未婚の方、家族係累なく・・・・・・。>というものです。

直ぐに文を練って返事の手紙を書きますが一週間、二週間と待っても連絡は来ません。半分諦めかけていたとき連絡の手紙が届きました。それにはフランス行きの航空機のチケットが同封されていました。

こうして会った男は世界的な大富豪の信頼されている秘書で彼が仕える大富豪と結婚できるように手助けするいう話です。

この辺は身勝手さが目に付く彼女の行動ですが、彼女の信念と行動がブレずにしっかりと書かれているので嫌悪感を抱くことなく読み進めます。

秘書とヒルデガルデのやり取りも本音をぶつけ合った話し合いで、一つの契約のようなお互いを信頼をするという結論になります。

こうなると大富豪とヒルデガルデの結婚は上手くいくのかという興味になりますが、秘書の的確なアドバイスと彼女の容姿と態度に大富豪のカール・リッチモンドも少しずつ関心を寄せていきます。

前半はこの結婚までのプロセスが描かれていますが、後半は一変します。

始めに書いたようにこれまで書かれなかった結末が用意されたミステリで、当時はこの結末にミステリファンは驚いた事でしょう。

いま読めば、それほどの意外性に満ちたラストでも何でもないと思います。

しかし、当時誰も書かなかったミステリという事実が、いま現在でも燦然と輝いていると思います。映像で観たいと思いますが1964年にジーナ・ロロブリジーダとショーン・コネリーの顔合わせで

映画化されています。 もっとも映画の方は原作とは違って保守的な結末になっていますが、確かDVDが出ていますので気になった方は探してみてください。

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『鍵の掛かった男』有栖川有栖のミステリ

2016-07-10 10:51:25 | ミステリ小説
                
                 

有栖川有栖の久しぶりの長編です。いつもは火村のワトソン役に徹している有栖が今回は

火村に変わって依頼された問題に取り組むストーリーです。大阪の中之島が舞台になっています。このため中之島に関したプチトレビアが楽しめます。大阪に行ったことのない人でも

大阪という土地に親近感を持って貰えるでしょう。

中之島にある小さなホテル「銀星ホテル」。ここに住み着いていた一人の男。その男が部屋で縊死しているのが見つかります。このホテルを定宿にしていた大御所の女流作家は、そう深い付き合いではなかったが

彼の死に関して自殺とする警察の見解に疑問を持ちます。大人しく誰かとトラブルを起こしそうな人物には見えませんでした。しかし、他殺の根拠がないから自殺とする、そのあり方に納得がいかなかったのです。

支配人夫婦やホテルの常連たちとの交流も控えめながらあり、ボランティアに出かけたり中之島にある美術館や図書館に足を運び毎日を楽しみながらホテル暮らしをしていた男。

他殺を示す証拠は見つからない。法医学的に見て自殺と判定しても矛盾はありませんというのが担当刑事の言葉です。

東京のパーティの席で有栖川は大御所女流作家からこの件を調べるように頼まれます。彼女の意見は自殺はあり得ない、だから他殺であると。

今回は火村に変わって有栖がコツコツと足を使って調べて歩くお話で、過去の詳しい話を誰にもしなかった男のこれまでの人生の軌跡を辿り死亡の動機に係わる人物がいないかを探っていきます。

しかし、自分のことはあまり話さず5年ものあいだホテルに住み着いていた男は謎めいています。どこの誰だったのか、有栖の調べは簡単ではありません。

自殺であるとする警察の見解ではすべての人物の証言を集めることはありません。有栖はこれまで警察が話を聞かなかったかけ離れた人物にまで話を聞きに回ります。

こうしてホテルの部屋で縊死した謎の人物の過去が少しずつ浮かび上がってくるところがこの物語の読ませどころになっています。 私はこういつた形態の話しはどちらかと云うと好きな方なので楽しみながら読み進めました。

全体を見ても感じるのはとても自然に話が動くということです。作者の都合に沿った作為的なところはありません。 電車内のトラブルを撮影したという件も、現実にはテレビの生放送で視聴者提供という動画が

リアルタイムで流される現代です。その意味からも無理のない設定と云えるでしょう。

丹念に関係者に当たりこれまで出てこなかったちょっとした話を拾い集めてジグゾーパズルを埋めていく有栖。

そして決定的な過去の出来事と現在の接点を解き明かし、そこで矛盾する行動の人物を指摘する火村。

久しぶりに楽しませてもらいました。有栖川有栖さん願わくばもっと長編をお願いします。