Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックスのミステリ

2016-07-31 13:23:33 | ミステリ小説


                              

古書の鑑定家で保存修復家のハンナ・ヒースが、1996年サラエボでサラエボ・ハガダーと呼ばれる一冊の古書に出会うところからこの物語が始まります。

鑑定の結果本からは小さなワインのような茶褐色の染みと、塩化ナトリウム、一般的な塩のようなものと、翅脈のある昆虫の羽が見つかります。

本の間から見つかった三つの痕跡に関しての物語が時代を遡り順次語られていきます。

過去の物語と現在を舞台にしたハンナの行動を追う展開の物語が交互に進むということですが、過去の古書に関係した物語はキリスト教、ユダヤ教、イスラム教などの歴史的な問題や

人類の歴史そのものが深く係わっている内容です。それぞれのエピソードの主人公は過酷な運命に翻弄されながらもハガダーを守ります。

著者はジャーナリスト出身の人で実際の出来事とフィクションを絡ませたこの物語も硬派な視点で描かれています。

宗教に関する事柄も、いろいろな弾圧とか虐殺などもあった史実を踏まえ、今では想像も出来ないような中世の時代の一般の人々の生活が書かれていて

単に古書に昆虫の羽など、その痕跡を残したというエピソードに収まらないような物語が綴られています。

現在を舞台にしたハンナの行動を描いた章でも母親との確執や、父親のこれまで秘密にされていた部分が明らかになってくるところなど飽きさせない展開で読ませます。

もし、一冊の古書にパン屑の欠片が少しでも残っていたら、どれだけその古書についてのことが分かるか・・・・・・。

それがハンナの仕事です。 この痕跡を探るというミステリアスな部分と科学的に検証していく過程とが過去の物語に繋がるところがこの物語の本筋です。

顔料一つにしても知らなかったことがあれこれと出てきて非常に興味深く読むことができました。

一般的なミステリとはちょっとかけ離れた内容ですが、このような物語も読んで損はないと思います。

遥か昔ヘブライ語で書かれたハガダー。その古書の来歴をあなたも旅してみませんか。

              

『嵐の館』ミニオン・G・エバハートのミステリ

2016-07-31 12:32:12 | ミステリ小説
  
    
                                    


ゴシックロマンスと嵐の孤島での連続殺人ミステリ。ふたつを混ぜると「嵐の館」になる。

以下、訳者のあとがきより ~ エキゾチックな島。生きているかのような気配の古い家。性的抑圧。禁断の恋。三角関係。浮気。裏切り。愛憎相半ばの関係。不意打ちのキス。女同士の争い。

嵐によるパニック。 そして大胆な伏線。 ~


アメリカのミステリ作家メアリー・ロバーツ・ラインハートが先鞭をつけたとされる「もし知ってさえいたら・・・・・・」と主人公に語らせることで読者に迫りくる恐怖を予感させる手法は、

後に「H・I・B・K(Had-I-But-Known)」と呼ばれるサスペンス小説の一つの型として多くの作家に影響をあたえましたが、本書の著者ミニオン・G・エバハートもこの手法を得意としている作家のようです。

大胆な伏線というのは本当にそうです。マサカと思うような手口でサラリと書いています。 しかし、今このような書き方をしたら多分十中八九読者に見破られるでしょうね。

それほど大胆であると云えますし、古典的過ぎると云うことです。

二人の秘密をいつ打ち明けるのだろう、そう思いながらハラハラドキドキで読み進めます。あ、多少誇張していますが、中々話す機会がなく事態が進む中で一体いつ話すのか、そこのところはやはり

興味を惹かれて読むのは間違いありません。

舞台が孤島ですから当然登場人物は限られてきます。 この中に犯人が居るのだと分かっていてもそう簡単には分かりません。というか解ってしまうとお話になりませんから。( ´艸`)

最初にあげたキーワードに反応する人はもう読むしかありませんね。

嵐が去ってジムとノーニにどのような未来が待っているのか、夏の暑い日、涼しいCofeでミステリを楽しむにはちょうど良い一冊と思います。