Mのミステリー研究所

古今東西の面白いミステリーを紹介します。
まだ読んでいないアナタにとっておきの一冊をご紹介。

「一千兆円の身代金」八木圭一のミステリ

2014-10-11 16:24:15 | ミステリ小説
                                  

もと副総理の孫が誘拐され身代金として「財政赤字と同額の1085兆円を支払うか、それとも巨額の財政赤字を招いた責任を公式に謝罪して速やかに財政再建案を示せ」

このような要求が家族とマスコミに届きます。ちょっと今までにないスケールのお話で、今の日本が抱える問題点がリアルに圧倒的なボリュームで書かれています。警視庁特殊係りの刑事たちが捜査にあたります。

しかし、誘拐現場の特定も予想されるだけで防犯ビデオにも不審者などは記録されておらず要求から想像される犯人像も意見が別れ捜査は難航します。

犯人は右派でもなく左派でもない純粋にこの国の現状に憂いを持つ人物です。過去からのいろいろな問題点を著者は犯人の意思として示します。参考文献はかなりの量になっていますが、こういったテーマの物語に

良く出る意見が、資料が偏っているだとかある一面しか見ていないといった批判的な意見です。でもフィクションで物語の背景として人物を動かすための装置ですからある部分だけを見て扱うことは別段

かまわないと思います。その事だけを論じるわけではないのですから。しかし、個人的に興味があるのは今は選挙権がない十代の人がこれを読んだらどう感じるだろうかということです。

民主国家ですから政治家を選んだのは我々国民です。政治家や官僚ばかりを責められません。でも、一千兆円の借金があり国民一人当たり八百万円の計算と云われています。

それでも、国民の金融資産は一千四百兆円あり国債も95%が国内で消化されておりギリシャとは比較にならないとか、外貨準備が百兆円以上、財政投融資、社会保障基金など日本政府は金融資産が五百兆円以上あり心配はない、

という意見と、いま国家予算の半分が借金と、借金を返すための借金である事実とGDP比では二倍を超えて先進国では最悪の水準であるとの意見も出てきます。その他にも様々な問題点が犯人の要求に絡んだ内容として

紹介されます。 こういったところを読んでいくと確かにこの先日本はどうなるのだろうと心配になります。犯人の心情にも行動にも共感します。ですが、肝心のミステリとしてみればどうでしょう。

資料のほうにエネルギーを使い過ぎて例えば人物描写など少し浅く感じます。登場人物の描き方がイマイチ不足気味でそれぞれの人物の性格などがもうひとつ掴めません。でも、警察内部の捜査の様子とか一課や特殊係り

や公安などの主導権争いの様子などがキッチリ書かれていて読ませます。ラストのあり方にどれほどの人が共感するかが問題でしょう。


                                  

                                           
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「黒龍荘の惨劇」岡田秀文のミステリ

2014-10-05 07:16:30 | ミステリ小説
                                                                                                                                            昔懐かしいスタイルのミステリです。舞台は明治の時代です。なぜ明治の時代になっているのか?それは現代では金田一耕介の世界が描き様がないからです。

交通が遮断され孤立した山荘で警察の介入も助けも呼べない状況で起きる連続殺人事件。 これだけでもサスペンス感が盛り上がりワクワクしながら読んでいきます。

でも、現在ではケータイやパソコンがありますので情報があっという間に外に流れます。写真や動画となってです。これではミステリは成立しません。警察の鑑識技術もそうです。死因、死亡推定時刻、DNA鑑定による身元の確定など、これでは誤魔化しようがありません。死んでいたのは双子の弟の方だった、こんなトリックはもう使えません。ミステリ作家受難の時代です。従ってこういった世界のミステリを書くには

時間を遡るしかありません。こう書くとこのミステリの内容のある意味ネタバレに繋がりますが、その辺は目をつぶって下さい。

伊藤博文公の書生だった二人が探偵とワトソン役になって連続殺人の謎を解明するために奮闘する物語です。 政界をうまく泳ぎまわり利権を漁っていた男のもとに脅迫状が届き、やがて彼の屋敷内で首が切断された

死体で発見されます。依頼を受け警察と連携しながら調べを進める二人ですが次々と殺人事件が起き、隣の部屋に関係者全員を集めていたのに死体のあった部屋では首が切断され持ち去られる事態が起こります。

謎めいた事件です。全部で六人の被害者が出ますが、その時探偵はこれまでの出来事に16の謎があると言います。確かに読者にも示される不可解な出来事は16もあります。

これを探偵は最後にすべてを明らかにしなければなりません。どういった答えを見せるのか興味は尽きません。

クラシックな本格ミステリです。極上の味かどうかはあなた自身の判断にお任せします。シリーズとして書くようですが、この世界感で書き続けて欲しいものです。

                                      
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