わにの日々-中西部編

在米30年大阪産の普通のおばさんが、アメリカ中西部の街に暮らす日記

天空の蜂

2016-02-06 | 映画・ドラマ・本


 原作本を借りて読んだのですが、とても面白かったし、迫力のあるシーンも多いので、是非とも映画が見たいと思っていました。本を読んだ後だから謎解きの楽しみはありませんでしたが、ネタも結果も判っていてもハラハラするシーンあり、テンポよく話が進んで中だるみもなく、ストーリーを知っていても十分に楽しめる娯楽作品でした。東野圭吾氏の本を全部読んだわけではありませんが、今までに読んだ本は、ちょっとオカルトチックだったり、「それじゃないだろwww」な、とんでもサイエンスだったりと、超常現象ものが多かったので、原作は、こんな骨太な作品も書くんだ、と、少し意外でした、でも、東野作品で一番好きなのは、まさに超常現象がベースの「ナミヤ雑貨店の奇跡」。いいお話だよねぇ…

 この映画の感想や批評をネットで見ていると、原発の危険や政府の無責任とかって社会的告発の映画として弱いって意見も多いようですが、私は、それは単なる設定の味付けとして、完全にエンターテイメントとして楽しみました。軍用機なのに見張りもなく子供が機内に忍び込めるザル警備、バックアップもなく犯人のアパートに踏込むアホな自衛隊、おもちゃみたいなちゃちいリモコンで制御される巨大軍用ヘリ、日本中の危機とか言いつつ、政府の偉い人は一人しか出てこない… 言い出したらキリが無い。三島をこの事件に走らせた息子の自殺も、重要な要素なのに甘すぎ。下にマットくらい敷け。あれだけ落書きされてるのに「いじめはなかった」と言い張る学校はもうギャグの域。手っ取り早く説明したかったんだろうけど、それをやったら焦点がずれるから軽く流したのかな、と、思いました。そんなとこも、娯楽に徹した作品と思った理由。

 でもねー、若い刑事さんが殉職して、彼にも小さな息子がいたってのは、いたたまれない。主人公の息子は無事に救出されてめでたしめでたしの一方で、脇役の息子はこれからどうなるんだろうって…

 ともあれ、細かい事は気にせず、ハイジャックされたヘリに取り残された設計者、湯島の息子の高彦くん救出の無茶っぷりにハラハラ・ドキドキし、高彦くんが落ちた時にはキャッ!と声を上げ、無事、地上に降り立ってよかった、良かったと胸をなでおろし、クライマックスのヘリを海に落とすシーンにも手に汗握り… いやー、楽しみました。

 先日、「日本の一番長い日」を見たばかりなのですが、温和な昭和天皇を演じていた本木雅弘さんが、終始、厳しい表情で三島を演じ、まるで別人。役者さんって凄いなぁ。存在感のある俳優さんになられたと思います。スシ食いねェ!って歌い踊ってた兄ちゃんという私の中のイメージは、流石にそろそろ払拭させなきゃ。大抵の映画で、出るだけでお腹一杯なる竹中直人氏も、今回は抑えた演技でよかった。高彦くんのお母さん(湯島の奥さん)は初っ端からヒスりすぎだし、事件の鍵を握ると紹介される赤嶺さんはひたすら暗く、美しい女刑事さんは添え物っぽいと、男性陣が目立つ映画ですが、おっさん達がそれぞれ渋くて良いねぇ。

 肝心のヘリコプター、ビッグBが、何度も台詞で「でかい!」と言われていても、巨大さがイマイチ伝わってこないのと、フォルムがかっこ良くないのは私的にはややガッカリ。こういうトコ、ハリウッドだったらCG使いまくって、「おお、すげー!」なマシンだったかも。思い出したのは、トニー・スコット監督の遺作(惜しい人を亡くしました)、デンゼル・ワシントン主演の2010年映画「アンストッパブル」です。まるでジョーズのサメのように、怖い音楽とともに迫る貨物列車の脅威を、ニュース中継を観るような臨場感で魅せたスリルのある映画です。ぼてっとしたビッグBくんには、暴走列車777号のような存在感がない。不敵にニヤニヤしながら原発上空でホバリングするビッグBくんにも、もっと見せ場が欲しかった。

 あと、原作が20年前に書かれた作品ということで、大人になった高彦くんが救助ヘリの操縦手となって東北大震災の被害者救援に携わっている姿が付け加えられてるのですが、これは蛇足だと思ったな。どうしても、今どきの原発問題に結びつけたかったのかもしれないけど、これで、原発告発作品と誤解しちゃった(?)観客もおられそうです。三島が、事件後20年近く生きていたって情報も蛇足。むしろ、赤嶺さんのお腹にいた三島の子供がどう成長したかのほうが興味あるわ。震災直前まで服していた三島が、その年月を生きてきたのは、子供が救済の存在になったから…で、あればいいな…