リニア新幹線・「玉砕国家日本はどこへ行く」
先日フェースブックに、
「玉砕国家日本はどこへ行く」と題するリニア新幹線批判が掲載されていた。
参照:全国民が見るべき動画。リニア新幹線のバカさ加減が ... - Blogos
この「アニメ動画」を検証します。
ここには、「リニア新幹線」への懸念と批判が凝縮されていて興味深い。
しかし、その内容は、いくつかの賛同の部分と多くの納得出来ない部分が含まれている。論理的でない、科学的でない飛躍や短略は、最初に”反対ありき”の結論からの醜悪なプロパガンダに成り下がるのかも知れない。
①:最初に画面 ・・・”ライチョウ”、”クマタカ”、”生態系破壊”と出る。
・・・ 確かに赤石山脈(南アルプス)にトンネルを掘って、”リニア新幹線”を走らせようとする計画。懸念されるのは、むしろ山麓に住む猪、鹿、猿や山麓の草木の方らしい。山脈の山頂付近の、”ライチョウ”への影響は、ほぼ無いと見られるが、森林破壊で、”クマタカ”への影響は、懸念される。しかし、まだ未知の部分も多いので断定はできない。 ・・・これを巻頭の掲げるのは、”意図”を感じる。
②動画に移ると、漫画的説明に移って、突然”猫”が出てきて、”リニア新幹線”なる無謀な計画は、中止させなければならぬ」と宣言する。 ・・・無謀であるなら止めさせなければならない。
③無謀の理由は、電力消費が3倍で、スピード(対東海道新幹線)が2倍。 ・・・エネルギー効率が悪い。
④ここで、猫は、原子力発電の再稼働容認と関連していると説く。 ・・・本当だろうか。 ・・・調べて見たが、JR東海は、だから原発は必要だ、というような声明は一切出していない。これは民間の事業だが、政府からの電力必要量の懸念も発表されていない。尤も、リニアの計画は、原発事故が起こる相当前であり、その頃は総電力量の中に、原発電力も含まれていたのも確かだろう。話の順序は、リニアが先で、原発事故があり、リニアが具体化してくる時、電力が足りるかどうか、という話である。無理矢理、原発必要論と結びつけるのは、飛躍・短略であるようだ。
⑤JR東海の考え方 ・・・電力の安定供給のために、原発は必要。 ・・・まあ、電車は電気の動くのだから、電力の安定供給は必要でしょう。夜、灯りが必要なのも、TV・パソコンを動かすのも、電車に乗るのも、電力は必要なことは大前提で、その上で電力を作り出すのに、”危険な原発が必要”かどうかは、意見が分かれるところ ・・・筆者は”原発”に反対である。しかし、ウランやプルトヌムなどは、発電しようとしまいと、所持していること自体が危険であり、発電とは基本的に関係が無い。
⑥「原発がなければリニア新幹線は成立しない」 ・・・これは論理矛盾である。電気がなければ、電車が走らない、ということである。 ・・・これは意図的なすり替えである。
⑦電磁波の健康被害 ・・・基準値を下回っても危険だというと ・・・何を信じたらいいのだろう。防御壁を作っても心配だ、というのなら、危険を伴う”新しいこと”への挑戦が不可能になる。
⑧トンネルが多く、中央構造線の下をほって、リニアを通す計画。 ・・・確かに未知な部分が多く、予知できない危険があるかも知れないのは事実。 ・・・ただ、ルートが地震多発地帯だというのは聞いたことがない。どこからの資料であろうか。
⑨環境面。大井川の水量の減少は事実であろう。
⑩環境面。動植物への影響。①の内容。
⑪環境面。トンネルの残土。関連自治体に”処理”を依頼した。
⑫採算性。経済性ついては、全く正反対に、利便性は経済を活性化させると思います。延長の名古屋-大阪は、余り経済の活性化をもたらさないように思いますが。また、途中駅での経済効果も、地元の取り組み如何でしょうけれど、大きく貢献するようには思えません。時間の短縮は、思わぬアクセスルートの変革がありそうですが。
総じて、このアニメ動画は、かなり”粗雑”だが、リニア新幹線の解決しなければならない問題はありそうだ。
東京-名古屋間40分は夢である。時間短縮の運行時間は、利便性の向上である。交通機関の交通網は、この前提に立って改良されて現在に到っている。これが歴史的な現実である。
これは、「リニア新幹線」を偏見しての、”ヘイトスピーチ”まがい。先に結論ありき。
①の《山脈の山頂付近の、”ライチョウ”や”クマタカ”への影響は、ほぼ無いと見られる。》というご見解は、どのような論拠に基づくものでしょうか。
クマタカについてですが、「影響を及ぼす可能性がある」とJR東海自身が見解を述べています。環境影響評価書に対する環境大臣および国土交通大臣意見でも、南アルプスの山梨・長野県区域で生息の確認されたことを受け、保全に万全を尽くすよう言及しています。http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=24643&hou_id=18248
ご存知かもしれませんが、クマタカやイヌワシは警戒心が非常に強いため、近傍に人や重機が近寄るだけでも営巣を放棄することがあるため、環境省が特別に保護マニュアルを設計しているほどです。これらの生息確認により、ダム工事やゴルフ場開発が中止になることさえあります。http://www.env.go.jp/nature/yasei/raptores/protection.html
クマタカについては、トンネルそのものが影響を与えるわけでなく、その繁殖地域に大規模な残土置き場を造成することによって生息環境が悪化したり、大量の工事用車両が10年余りにわたって通行することによって、営巣を放棄する可能性があるためです。営巣可能地はごく限られているうえ、繁殖に広い面積が必要なため、よそへ移らせるという手段もとれません、
それからJR東海は、生態系への影響評価において、キツネやクマタカの生息地が高山側へシフトすることにより、生息環境は保たれるという論法を用いています。ライチョウの生息エリアに影響を及ぼすと述べているのに等しいです。
また、《懸念されるのは、むしろ山麓に住む猪、鹿、猿や山麓の草木の方らしい。》という情報も、聞いたことがございません。
環境アセスメントでは、通常は希少性の高い種を選定して影響を予測しますが、猪、鹿、猿は南アルプスにおいては普通種ですので、アセス対象にはなっていないはずです。
⑧地震多発地帯という表現は誤っていると私も感じました。ただし、市ノ瀬断層、伊那谷断層帯、阿寺断層などA級活断層を数多く横切ること、南アルプスが東海地震の想定震源域にあたることは事実です。
⑪の残土ですが、「緻密な計画表が出来つつある」という話ですが、私は一度も聞いたことがございません。どのような情報に基づくのでしょうか?
実際、処分方法はほとんど決まっていません。事業認可申請時点で目途をつけ、環境影響評価書に処分方法を記載したのは、全体の3割程度です。
また、処分方法を決めたといっても、静岡の場合は標高2000mの稜線上の山崩れに東京ドーム2杯分を積み上げるとか、、大崩壊地直下の河原に積み上げるという案であり、災害誘発の懸念があるため、市と県から中止を要請されています。そもそも、現計画では森林法や河川法の違反行為となり、実行することはほぼ不可能です。
ブログ主様は、
《この「アニメ動画」を検証します》《論理的でない、科学的でない飛躍や短略は、最初に”反対ありき”の結論からの醜悪なプロパガンダに成り下がるのかも知れない》
とおっしゃいますが、ご意見の内容から判断して、JR東海の作成した環境影響評価書をご覧になられていないのではないかと推察します。検証なさるのは自由でありますが、その検証が適切か否かも検証なさった方がよろしいかと存じます。
長文、失礼いたしました。
言葉が足りなかったところと、調べ直したところを以下に・・・
①:雷鳥の生息域
通常は、2000~3000mの高山域に生息すると言われる。2005年の調査によれば新潟県頸城山塊の火打山と新潟焼山に約25羽、北アルプス朝日岳から穂高岳にかけて約2000羽、乗鞍岳に約100羽、御嶽山に約100羽、南アルプス甲斐駒ヶ岳から光岳にかけて約700羽生息していることが確認されている。特徴は、2000~2500mの山頂を標高とする 山には生息しないと言うことで、逆に森林限界を超した標高や火山などの禿げ山(標高は低い)に生息するという特徴が見られる。
①:クマタカとイヌワシの生息域
イヌワシ・クマタカの生息状況に関する国交省資料の分析結果については、... 豊かな森林生態系の指標種とされるイヌワシ、クマタカは全国的に減少しており、中部山岳地帯が最も多い生息地で、八ッ場ダム地域は数少ない 生息地になっています。これは豊かな森林が、クマタカやイヌワシに、食料(=餌)を提供していると見ていいでしょう。標高には関係していないようです。むしろ、森林破壊があるのかどうか、です。
→ 「山脈の山頂付近の、”ライチョウ”や”クマタカ”への影響は、ほぼ無いと見られる。」は、「山脈の山頂付近の、”ライチョウ”への影響は、ほぼ無いと見られるが、森林破壊に”クマタカ”への影響は、懸念される。」に書き換える
⑧:地震多発地帯
一般論 ・・・ 年50回以上のところ
①釧路から根室 ・・太平洋プレートが北米プレート
②和歌山市
③茨城県南西部から千葉県北部 ・・現在最も頻発に地震情報がある。
*昔、松代地震というのがあったが、どういうわけか地震多発地帯に含まれていない。
地震が余り起こらないところ ・・・年5回程度以下
①北海道の北部や西部、
②中国地方の日本海側、
③徳島県から瀬戸内海を横切って北九州へかけての地方
⑪:リニア新幹線のトンネル残土
・・・トンネル掘削で発生する大量の残土の発生量を抑え、地元自治体と協議して管理計画を作るよう要請した・・・
○これを見ると、トンネル残土の問題は、関連自治体に”処理”を依頼したようです。
これを受けた各自治体は、・・残土の置き場や処理に目途をつけた自治体は少数。トンネルが長いので、出口入口に該当する自治体も少なそうですが
・・・大鹿村 候補地はあるが決定していない
・・・岐阜・東濃・土岐 未決定
・・・山梨・リニア残土活用、芦安に駐車場造成
・・・他に、神奈川県、愛知県にも残土の問題がありますが、既に既設の地下鉄などの残土処理の経験があるため、それよりも少量の残土の問題は大きく取り上げられていません。
これらの自治体は、ほとんどがリニア駅誘致に熱心であり、従って残土処理が、前のめりで”ずさんな計画”にならないとも限りません。見守る必要はあります。
→「緻密な計画表が出来つつあると聞いているが。」は「関連自治体に”処理”を依頼した」と書き換える。