なにげな言葉

なにげない言葉を あなたに伝えたい
迷宮・緑柱玉の世界の独り言

懐かしいクリスマス

2001-12-24 | 別館ログ
誰もいない部屋に帰る。
空気は冷たく、音のない部屋。
靴を脱ぎながら、電気のスイッチの場所を手が探す。
位置を手が知っている。

コートを脱ぎながら、リビングへと向かう。
朝、出ていった風景がそこには広がっている。
電話のメッセージありのランプの点滅が、視界に入った。
再生してみる。

仕事の伝言。
友人からのメッセージ。
「Happy Christmas!」皆の声がはじけている。
楽しい夜を迎えようとしている時間だ。
ネクタイを緩めながら、数件のメッセージを聞く。

「パパ、お帰りなさ~い!
 Christmasの夜ですよ~。パパの所にもサンタさんが来ますように~。
 パパの枕の下を見て!
 Merry Christmas」

実家に泊まりに行った娘達の声のメッセージ。
バックでは、楽しそうな声がしていた。

娘のメッセージ通り、寝室に向かう。
そこには、出したはずのないスーツが出ていた。
枕を起こすと、枕の下から、ピンクの封筒が出てきた。
小さな文字で、パパへと書いてある。

小さなサンタのプレゼント。
手紙を手にしてデスクへ向かい、ペーパーナイフで開けてみる。
中には数枚の手紙とカードが入っていた。

「パパお仕事お疲れ様!ママを探してね。」

「?・・・・
 ママを探す?」

そのメッセージを見て分からなかった。

たぶん謎のはじまりは、留守番電話。…メッセージカード・・・
その先が分からない。
ママという事は、Emeraldは、子供と一緒ではないと言うことだ。
家の中にいるのか?

僕は急いで玄関に向かい、下駄箱の中をみた。
何時も履く靴が一足抜けている、家にはいないのだろう。
ベットの上のスーツだ!
急いで寝室のベットの上のスーツに着替える。
このスーツに何はヒントがあるのではないだろうか?

スーツのポケットを探したが何もヒントはなかった。
はたしてEmeraldを探すヒントはどこにあるのだろうか。

Emerald携帯電話に電話をしてみる。
呼び出している。なかなかでない。
微かにどこかで音がする。
電話を持ったまま音のする方を探す。
Emeraldのことだ、どこかに隠れているのだろう!

僕は家中を捜した。
バスルーム、トイレ、クローゼット、衣裳部屋・・・
どこにもいない。

ドレッサーの上にある携帯電話がなっていた。
やはりEmeraldは子供と一緒ではないと言うことだ。
昨日、僕が送り届けたのだから、ここにいないはず。

途方にくれ、タバコに火をつけ灰皿を見た。
小さなカードが灰皿の下に透けて見えた。

「”○○ホテルロビーにてPM8:00に、待っています。”」
         Emerald

やっと見つけた手がかりのカードをポケットに入れ、時計を見た。
PM18:45
Christmasの夜、道が込んでない事を祈った。
遅れるとの連絡は出来ない。
Christmasの夜に、言い訳の電話などしたくない。
そんな電話を望まないEmeraldは電話を置いていったのだろう。
僕は急いでホテルへと向かった。

僕は、運転しながら考えた。
なぜ一緒に行こうと言わずに、一人で謎のようにカードを残したのだろう。
子供と実家で過ごす冬休みを楽しみにしていたのではなかったのか・・・

ホテルの前でドアボーイに車のキーを渡し、思い出した。
昨年もこうして、ここに泊まったのだ。
そして帰る時に来年もまた来ようと約束をした。
毎年来ていたのに、今年は忘れていた。
Emeraldは予約を入れていたのだろうか・・・

ホテルのロビーに進んでいくと、人の多さに、戸惑った。
Emeraldを見つける事が出来るだろうか

その時、顔なじみのホテルマンが声をかけてきた。
「いらっしゃいませ!
 今日は、お一人ですか?」

僕は返事に戸惑った。
Christmasの夜、一人でホテルというのが不自然に思えた。
しかし、予約を入れていない以上、確かな返事が出来ない。

「ああ、待ち合わせをしていてね。
 人の多さに、見つけ出せるか不安だよ。」

ホテルマンは、誰と待ち合わせと聞かなかった。
その親切は、僕の言いよどんでいる事を理解しての事だろう。

「ワイフと待ち合わせ、今から探すよ。」
「ご予約は?」
「さあ、今年は忘れてしまって・・・・」
「では、フロントでお調べいたします。」
「いや、・・・・予約はしてないと思うが・・」
「お調べいたしますので、お待ちください。」

僕はソファーに座り待つ事にした。
「田之上様、ご予約が入っております。お部屋の方にご案内いたします。」
「ああ。」
僕は、予約が入っていた事にほっとした。
確かに僕は忘れた。
しかしここにEmeraldが来ていると言う事だ。
「荷物もないので、自分で行くよ。」
そう言って、鍵を受け取り部屋へと向かった。
鍵を手にしているということは、部屋にはいないのだろうか?
とにかく部屋へと向かった。
ドアを開け、室内を覗いてみたが、Emeraldの姿はない。
再びドアを閉め、ロビーへと向かった。

僕の姿を見て支配人が、近づいてきた。
「今年もご利用ありがとうございます。」
「ワイフを見なかった?」
「奥様ですか?」
「ああ、今部屋に行ったが、いなかった。」
「ご一緒ではなかったのですね。」
「ああ、ホテルで待ち合わせになっている。」
「では探しましょう。お待ちください。」

彼はスイス人でありながら、流暢な日本語で話す。
彼はロビーにいるホテルマンに用件を伝え、僕の元に戻った。
そして、紅茶を出すように指示をしてくれた。
年に数度しか来ない客の好みを覚えている、さすがだ。
Emeraldを探す事が出来るのだろうか?
ホテルマンがEmeraldの顔を覚えているだろうか・・・
彼は、僕に、ホテルでの予定を聞いてきた。
今までそのような事はなかった彼をまじまじと見てしまった。
「いや、特別決めていない。
 実は今年は予約を忘れていた。だから予約が何日入っているのかさえ分からないんだ。」
彼は、少し微笑み、
「今年は奥様がご予約なっさったのですね。楽しいお時間をお過ごしください。」
そういうと彼は再び人ごみの方に歩いて行った。

僕は出された紅茶を飲みながら、あたりの風景をみたいた。
しばらくすると、支配人と共に歩いてくるEmerald。
「田之上様。マダムをおつれいたしました。」
「ありがとう。」

「あなた、よく伝言が分かったわね。
 お仕事終わりました?」
「家中探してしまったよ。」
「でもさすがです。嬉しいです。」
「Emerald、もし僕が家に帰らなかったり、メッセージを聞かなかったらどうするつもりだったんだ?」
「メッセージは、会社の電話にも入ってるんですよ。
 10時まで待ってこなかったら、違う方法を考えてあったんですよ。」
「なんだろう?」
「それは教えないわ。
 それにもし来てくれなくても、ここでのんびり出来るでしょ?」
「しかし、Christmasの夜に、一人でホテルというのも寂しくないか?」
「一人じゃないわよ。」
「え?子供もいるのか?」
「いいえ。」
「今日は、とっておきのゲストいるんです。」
「え?」
「お部屋で待ってるんです。一緒にお部屋に行きましょ」

僕はよく分からなかった。
Emeraldは、ご機嫌に鼻歌交じりで腕を組んできた。
支配人と目が合った。
軽く会釈をして、エレベーターに乗り込んだ。

部屋のドアを開け、Emeraldと共に部屋に入ったが、誰もいなかった。
「誰もいないぞ!」
「ちょっと待って!急がないでよ。」
「ゆっくりしましょう。」

その時ドアチャイムがなった。
ワインとフルーツにケーキ。
そして、小さな箱にリボンがついていた。
ボーイがそっと僕に手紙を渡してくれた。
その手紙には、貴方の替わりに、プレゼントを用意しました。
奥様には、貴方からと上げてください。

支配人からのプレゼントだった。
僕は嬉かった。
彼の先ほどの質問の意味が分かった。
僕が予約を入れなかったこと、プレゼントを忘れていた事。
彼は気を使ってくれたのだ。

僕は、彼の親切をありがたく受け取り、お礼に手紙を書いて渡した。
初めて泊まるホテルではこうはいかないだろう。
彼に機転と、サービス精神に感謝して、僕はEmeraldにプレゼントを渡す事にした。

Emeraldは、なにやら用意ができたと言って、僕を呼んだ。
ソファーに座り、待っていると、ワインとグラスを持ち隣に座った。
「ワインを用意してくださいます?」
「私から、貴方へのプレゼントを上げるから、待っててね。」
「ああ。」

僕は期待した。
訪問者のことか・・・

しかし誰も来る気配はなかった。
Emeraldはテレビを付け、リモコンを持って隣に座った。
「ビデオをスタートしてみて!」
「何かがはじまるのか?」
「みたら分かるわよ。」

画像は出ていなかったが、聞き覚えのある声。
Emeraldの声だ。
何が始まると言うのだろう。
ビデオの中のEmeraldの声は、今日のEmeraldのようにご機嫌だった。

その画面に映し出されたのは、信隆の姿がった。
それを撮っているのはEmerald。
彼が病院のベットでにこやかに笑っていた。

そうだその年のChristmasは、僕は海外だった。
Emeraldは、一人で過ごすChristmasを寂しいといい、外泊許可を取った。
彼にとっては、最後のChristmasだった。
その様子を残したビデオ。
僕はそれを見ようとしなかった。

Emeraldがこのビデオを再び僕に見せようとしている事。
Emeraldの中で何か整理がついたのだろう。
そして僕も再びEmeraldと生活しようと考えた。
離れている事の不自然さ。
僕は、Emeraldの思い、信隆の最後の姿を受け止める事にした。

ビデオの中の信隆は、僕について語っていた。
Emeraldはビデオをまわしながら泣きはじめていた。

隣に座るEmeraldを見た。
彼女は生き生きと話す信隆から、目が離せない様子だった。
僕についてこうも語る信隆を知らなかった。

「ありがとう」
最高のChristmasプレゼント。
リボンを解かず何年も眠っていたプレゼントが、これほど素晴らしいものとは知らなかった。


2001.12.24 Merry Christmas


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