深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

動乱の予感

2022-07-29 09:13:28 | 趣味人的レビュー
「影のCIA」の異名を取る世界的インテリジェンス企業、ストラトフォーの創業者にして会長のジョージ・フリードマンは邦訳名『100年予測』と題するシリーズを執筆している。『ヨーロッパ炎上 新・100年予測 動乱の地政学』もその1冊で、タイトルからも分かるようにロシア、トルコを含むヨーロッパの来たるべき地政学的な大変動について予測を述べている。

私はこれ以外のフリードマンの『100年予測』を読んだことがないのでよく分からないが、本書の中で彼はヨーロッパに対する負の感情を隠さない。本書にはヨーロッパの歴史とヨーロッパ人の思考傾向、行動様式、生活態度といったものに対するフリードマンの憎悪にも似た嘲笑と侮蔑、反感と諦観が溢れていて、まるで彼はこうした負の感情を原動力にして本書を執筆したのではないか、と思えるほどだ(逆に自分が暮らすアメリカは、かなり好意的に描かれている)。「第1章 ヨーロッパ人の生活」を読むと、ヨーロッパに対する彼のこうした強烈な負の感情は、第2次大戦前はハンガリーに住んでいた彼の一族が辿った歴史に起因しているのだろうことが分かる。

そうした個人的感情は、今後の世界の変動を予測する際にバイアスとなりかねないとも思うが、フリードマンは終始一貫してそのスタンスを変えない。それでも、そのことが特に予測精度を狂わせてもいない。そのことが私にはとても恐ろしい。本書(の原書とその日本語版)が出版されたのは2015年(で、私が読んだのは2017年に文庫化されたもの)だが、2016年6月23日の国民投票に始まるイギリスのEU離脱や、2022年2月24日からのロシアによるウクライナ侵攻についても、そうなることを示唆するような記述が数多く見られる。

そんな彼が本書の全体を通じて特に懸念しているのが、EU(というシステムとそこに加盟する諸国)とドイツとの関係である。この部分に明らかな揺らぎが生じた時、またヨーロッパ全体(のみならず、場合によっては世界全体)を巻き込む大戦争が始まるのかもしれない。そう語る彼の透徹した目はどこまでも冷たい。
ヨーロッパは特殊な場所ではない。戦争は何も「歴史に学ばなかったから」起きるわけではないし、その人たちの人間性が悪いから起きるのでもない。戦争が起きるのはまず、利害の対立があるからだ。利害の対立があまりに大きくなり、戦った場合に生じる結果の方が、戦わなかった場合に生じる結果よりましだ、と判断した時、人間は戦争をする。長い時間が経過するうちには、必ずどこかでそんな利害の対立は起きる。いくら起きないようにと願っても、防ぐことはできない。ヨーロッパ人も人間なので例外ではない。平和が続くようにと願うだけでは、戦争は防げない。悲しいことではあるが、事実は事実だ。(「終わりに」より)
この下りと本書の原題『FLASHPOINT(発火点)』とを考え合わせると、本書で語られていることは極めて啓示的である。

ところでドイツとEUについて、フリードマンのそれとは別に私自身の思うところがあり、最後にそれを述べたい。

ヨーロッパにおけるドイツ「帝国」の復活/再興ということは、以前「温故知新」にも書いたように、野田宣雄が『二十世紀をどう見るか』でも述べていたことである。そしてEUも当初は「ローマ帝国を現代に甦らせるものなのでは?」と言われたこともあったが、むしろ今では「ヨーロッパ合州国」とは名ばかりの、半ば形骸化した存在になってしまっている面が強い(そのことはフリードマンも本書で指摘している)。
そこでふと思うのは、神聖ローマ帝国のことだ。10世紀頃から19世紀初頭まで中央ヨーロッパに存在し、「ドイツ王」を称する皇帝によって統括されてはいたが、300以上の王国・公国・帝国自由都市・教会領・侯領・伯領および他の小貴族の領地は事実上独立した存在の、実体のない名ばかりの帝国。それは「ヨーロッパ合州国」と言いながら、それぞれが主権を持った国家同士の緩やかな連合体に過ぎないEUと不思議な相似形をなしている。
ドイツ帝国というと我々はついヒトラーの第3帝国をイメージしてしまうが、ドイツを中心とする中部ヨーロッパの政治的原風景とは、むしろ神聖ローマ帝国のような形なのではないだろうか。とするなら、独仏が主導して作られたEUの形骸化も、その政体が本来の形へと回帰しつつあるだけのようにも見えてしまうのだ。
 
※「本が好き」に投稿したレビューを一部修正したもの。
 

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