深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

心が叫びたがってるんだ

2015-10-07 00:12:06 | 趣味人的レビュー

『心が叫びたがってるんだ』を見に行ってきた。

劇場アニメ『心が叫びたがってるんだ(ここさけ)』は、震災から間もない2011年4~6月にフジテレビ「ノイタミナ」枠で放送され、高い評価を得た『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(あの花)』の制作メンバが再結集して作ったオリジナル・アニメだ。

『あの花』については、このブログでもテレビシリーズ最終回の前に書いた「あの花」、そしてテレビシリーズの1年後という設定で、シリーズのダイジェストに新たなエピソードを加えた『劇場版 あの花』を受けて書いた「あの夏に咲く花」の2本の記事をアップしている。

『ここさけ』は『あの花』と同様に高校生の群像劇だ。『あの花』とは全く独立した話だが、私が気づいた限りでは2シーンだけ『あの花』と時間的、空間的に地続き──舞台が同じ埼玉の秩父だし──であることが示されている。


主人公の成瀬順は幼い頃、家から見える丘の上のお城にあこがれる少女だった。そんな彼女はある日、父親が見知らぬ女性とそのお城に車で入っていくのを見て、父がお城の舞踏会に招かれたのだと興奮して母親にそのことをしゃべってしまう。だが母はその順の言葉で父が浮気しているのに気づき、2人は離婚することに。そう、丘の上のお城はラブホテルだったのだ。
そして順は突然現れた玉子の妖精に、人を傷つけた言葉をもう発することができないように、呪いをかけられてしまう。それ以来、彼女は言葉をしゃべろうとすると猛烈な腹痛に襲われて何も言えなくなり、「しゃべらない女」と周りからも距離を置かれるようになる。

高校2年になった順は、担任から「地域ふれあい交流会(ふれ交)」の4人の実行委員の1人にされてしまう。必死に抵抗しようとする順だが、何しろしゃべれないので担任に抗議することもできない。しかも担任(担当教科は音楽)は、今年は「ふれ交」でミュージカルをやろう、などと言い出す始末。だが「ふれ交」の企画を巡って紛糾する学級会の場で、彼女は突然歌い出し、しゃべることはできなくても歌でなら自分の気持ちを外に表せることを知る。
そして、そんな順の変化に引きずられるように、これまでやる気のなかった他の3人の委員も少しずつ変わっていき、順が自分の体験を元に書いた物語をミュージカルとして上演すべく、クラス全体を巻き込んで「ふれ交」に向けて準備を始めるのだが…。

ここで一応、予告編も。



過去の大きな失敗にとらわれていた主人公がホンの些細なことをきっかけにして変わり始め、それがダメダメだった周りをも変えていく──というのは物語としては大道中の大道──悪く言えば手垢のついたもの──で、これだけなら「またか…」と思われてしまうだろうが、さすがに『あの花』を書いた岡田麿里の脚本だけあって、そんなただの成長物語にはならない。

『あの花』では、幽霊になって現れた本田芽衣子(=めんま)を成仏させるために、幼なじみのグループだった5人が彼女の願いを叶えようと巨大なロケット花火を上げるために奔走する。しかし、同じ目標に向かって進んでいるはずの5人は、本心ではみんな違うことを願っていた。
『ここさけ』でも、歌うことで固く閉ざされていた自分の殻を破る順を始め、当初はやる気もなくバラバラだった4人の実行委員それぞれが「ふれ交」のミュージカルの準備を通じて成長していくのだが、同じ目標に向かって進んでいるはずの4人の心はすれ違っていく。

よく「自分の殻を破れ」といったようなことを言う人がいる。しかし「殻を破った」としても、それだけで「めでたしめでたし」とはならないことまで理解している人は少ない。『ここさけ』が描いていることの1つは、「殻を破った」先にあるものだ。それが何かはここでは書かない。知りたいなら見ることだ。

また『あの花』では、めんまの霊が見えるのは、かつてのグループのメンバのうち宿海(やどみ)仁太(=じんたん)ただ1人、という設定が物語を推進する大きな鍵となっていた。
『ここさけ』では、順が自分自身のことを書いたミュージカル用の物語がそれだ。劇中劇としての物語が『ここさけ』自体の物語と一体化して、登場人物たちの行き先を照らし出す。劇中劇が物語本体と融合してしていく作品は他にもあるが、『ここさけ』は順が「これは私自身のことを多少の脚色を交えて書いている」と表明してしまっているのがミソ。だから見ている側は順の心のありようを、物語本編と上演されるミュージカルの両方から見ることになるのだ。

そして『あの花』でもそうだったが、登場人物たちが自分の心の内を叫ぶように吐露するシーンは圧巻。

ところで『ここさけ』で思ったのは、成瀬順に呪いをかける玉子の妖精のことだ。その妖精自体は物語の中でトリックスターのような存在でしかないが、エンドロールでその声の配役を見て、この物語の隠された設定を見たような気がした(エンドロールを見るまで、玉子の妖精は『あの花』で松雪集(あつむ)(=ゆきあつ)を演じた櫻井孝宏がやっているのだとばかり思っていた)。


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