深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

何者

2016-10-27 20:32:27 | 趣味人的レビュー

今でも映画はよく見に行っているのだが、見た後で「何か書きたい」と思うものがあまりなかった。『シン・ゴジラ』も『君の名は。』も、確かにとても面白かったが、それについて何かを語りたいとは思わなかった(『シン・ゴジラ』は映画で描かれたもの以上の語るべきものの何もない映画だったし、『君の名は。』は何かを語る必要のない映画だった)。
そんな中、やっと語りたくなる映画と出合えた。『何者』である。

以前はホラー映画とかをよく見に行っていたが、最近はそういう映画を見ることはほとんどなくなってしまった。理由は「見ていても全然怖さを感じないから」。

だが『何者』はホントに怖かった。大学生の就活がテーマの作品だから、もちろん血まみれの死体や猟奇的殺人鬼なんか一切出てこないが、クライマックスでは久々に心底「怖ェ…」と思った。これは凄い作品だ。

原作は朝井リョウ。原作は読んでないが、文庫本裏表紙の内容紹介に書かれた「ラスト30ページが読者に襲いかかる」は嘘じゃない、と思う。

ここで予告編の動画を貼っておこう。



この物語の実質的な主人公は元演劇部で、求められると的確なアドバイスができる冷静分析系男子、拓人(たくと)(佐藤健)。彼とルームシェアしているのが、就活に専念するため、ずっと続けてきたバンドを引退したばかりの天真爛漫系男子、光太郎(菅田将暉)。海外留学から帰国したばかりで就職戦線に飛び込むことになる地道素直系女子、瑞月(有村架純)は以前、拓人を振り、光太郎に振られたことがある。意識高い系女子の理香(二階堂ふみ)は、拓人と光太郎がルームシェアしているところの一つ上の階に住んでいたことから、彼女の部屋が就活本部となる。その部屋で理香と同棲しているのが、クリエイター志望で就活に奔走する仲間たちを一段低く見ている空想クリエイター系男子、隆良(岡田将生)。拓人のことをよく知り、何かと気にかけているのは、演劇部時代の先輩で大学院生の達観先輩系男子、サワ先輩(山田孝之)。

『何者』は彼ら6人の就活を巡る人間模様を描いた群像劇だ。彼らは同じ就活という難題に立ち向かっていく同志であると同時に、そこには嫉妬、裏切り、嘲笑など、お互いに対する裏の感情もにじむ。

そしてもう1人、登場場面は少ないながら強い存在感を放つのがギンジだ(注)。ギンジは演劇部で拓人と組んで一緒に舞台を作ってきた、拓人の盟友とも言える存在だったが、部を辞め、大学も中退して、今は自分の劇団を立ち上げて月イチで公演を行っている。だが、その公演のネットでの評価はボロボロだ。

その幻のギンジの存在が彼ら6人にさまざまな影を落とす中、物語はクライマックスに向かって進んでいく。拓人が元演劇部ということもあって、物語の本筋の中にフラッシュバックするように何度も舞台のシーンがインサートされるのだが、クライマックスでその本当の意味が明らかになった時、俺は本当にゾッとしたね。この部分は原作ではどうなっているのかわからないが、この映画ならではの演出は見事というほかなくて、『何者』というタイトルに込められた意味と共に、極上のミステリを味わった気分で満足感いっぱい。


それにしても、映画を見て改めてわかったけど今の就活って本当に大変なんだね。

私は学生時代、自分は大学院に進んで、将来は数学者になる、とずっと思ってたのだけれど、大学院に落ちてしまって企業に就職したクチだ(今は逆で、就職できなかったから大学院に、ということになってるとか)。
私が大学4年の頃(1985年)も半導体不況なんて呼ばれてはいたものの、今と違って企業も体力があったし、特に理系は超売り手市場だったから、筆記試験も面接も「え、こんなんでいいの?」というくらい甘々で、試験さえ最後まで受ければほぼ自動的に採用、みたいな感じの時代だった。

今だったら絶対、どこからも内定なんてもらえないな。

ところで映画では企業での面接で、人事担当者が学生に「あなた自身を1分間で表現してください」と求めるシーンがあるのだが、それを見ていてふと、こういう質問を思いつく人って、自分のことを1分で語れる程度の人生しか送っていないのかな、と思ってしまった(もちろん質問の意図は、短い時間で自分のアピールポイントをしっかりまとめて話せるか、ということなのだろうことはわかった上で書いているのだが)。

(注)同じ朝井リョウ原作で映画化もされた『桐島、部活やめるってよ』では、物語の実質的な主人公である桐島は最後まで一度も姿を現さない。不在であるがゆえに存在感が際立つ、というのは朝井リョウの得意とするところなのかもしれない。


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