深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

倫理の時間

2021-02-27 14:00:04 | 趣味人的レビュー

NHKの「よるドラ」は『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』から見ていて、30分という枠ながら、かなり攻めたドラマ作りをしているので私のお気に入りだ。今、その「よるドラ」で放送中なのが『ここは今から倫理です。』である。主人公は高校で政経と倫理を教える高柳先生(下の名前は不明)。NHKのドラマサイトには、

20代を中心に異例の人気を誇る雨瀬シオリの異色の学園コミック『ここは今から倫理です。』を実写ドラマ化。日々価値観が揺さぶられ続けるこの世界で、新時代のあるべき「倫理」を問う。誰も見たことの無い本気の学園ドラマ。

とある。この紹介文に、金八先生みたいに“滲み出るような名言で迷える生徒たちを教え諭し導く熱血先生”が出てくるドラマをイメージするかもしれないが、『ここは~』はそれとは違う異質な感触を持ったドラマである。

私は子供がいないので今の学校のことにはまるで疎いのだが、私が高校生の頃は「倫理社会」と呼んでいたそれは「倫理」という名に変わり、選択科目の1つになっているのだとか。ただ当時も今も内容はあまり変わらず、哲学者の言葉を学ぶものであるようだ(だから本来は「哲学」という教科になっていて然るべきと思うのだが、なぜ「倫理」という教科になっているのだろう?)。その「倫理」の授業の一発目に高柳は生徒にこう語りかける。

「倫理は、学ばなくても将来ほぼ困ることはない学問です。この授業で得た知識が役に立つ仕事は、ほぼない。この知識でよく役に立つ場面があるとすれば、死が近づいた時とか…」

それでも彼は言う。

「倫理は選択科目ですが、実は人生における必修科目です」

と。

高柳は様々な問題を抱えた生徒たちに彼の持つ倫理の言葉と知識を投げかけ、それを受け取った彼らは変わっていく。けれども、高柳自身に積極的に生徒を導く意図があるのかどうか分からない場面もある。例えば第1回では、付き合っている彼氏に求められるまま体を許している女子生徒が高柳にモーションをかけてくる。「あたしは、先生がメッチャタイプなんだよね。先生は? どんな子がタイプ?」それに対して高柳はこう答える。

「私は教養がある女性がタイプです。あなたには教養がない」

それを聞いてショックを受けた女子生徒は図書室で哲学書などを読むようになるが、高柳はこうなることを意図したわけではなく、単に生徒から聞かれたことに正直に答えただけのように見える。変わったのは生徒自身の力だ。
また第4回では、ヤクの売買をしていた兄貴がそのカネを持って飛んだことで、ジュダ(つまりユダ)を名乗る男の店に監禁されてしまった生徒を高柳が取り返しに行くが、哲学者たちの言葉を引用して「人の本質は悪だ」と語るジュダに、高柳は明確な反論をすることができない(なお、高柳とジュダの間には過去に別の生徒のことで因縁があるようだ)。更に第5回では、高柳自身が「(倫理的な)正しさ」にがんじがらめになっていることが明らかになる。

ところで私は雨瀬シオリの原作はネットで#1を試し読みしただけだが、ドラマはほぼ原作に沿って作られているものの、高柳のキャラクタが原作とドラマでは違っているように感じた。原作の高柳はその内に虚無、あるいは喪失を抱え、その隙間を「倫理」で満たそうとしている人に見え、対して山田裕貴が演じるドラマの高柳はどこか弱く不安定で、そんな自分を「倫理」によって支えている印象を受ける。この違いは、演出家や演者の物語や役に対する解釈、そして演者自身のパーソナリティや身にまとう空気感などによって必然的に生じてくるものだが、そもそも作品の中で高柳自身の背景がほとんど語られない中、高柳という人物を考える上でちょっと興味深い。

ついでに、原作の版元がPRのために出している動画があったの、ここに貼っておく。この動画で高柳を演じている櫻井孝宏は、インテリジェンスとともに、ある種の冷たさを感じさせる声の持ち主で、そのため敵のボス的存在だったり味方の中に紛れた裏切り者といったキャラを演じることが多い。そんな櫻井による高柳は孤高で冷たいが、その冷たさがまた反転して暖かみを感じさせる、そんなキャラになっている。何より、このエピソードで語られる高柳の言葉は、「命はかけがえのない大切なもの」というありきたりの言葉では届かない人にこそ響くのではないだろうか。

さて、この記事を書いている時点でドラマは全8話中、第5話までが終わった。私自身は高柳を通じて生徒たちがどう変わっていくのか、ということ以上に、生徒たちを通じて高柳自身がどう変わるのかを密かに楽しみにしている。


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