ラジオで朝から晩まで大事な放送があるという予告があり、母は何があるのか?気がかりにしていた。
隣近所の農婦に連絡してラジオを庭の片隅に持ち出して周りにむしろを敷いて予告の時間を待っていた。
子どもたちは何が起きるかと集って来たが、なかなか放送が始まらないので、松林に仕掛けてある松の樹脂の採集に出かけてしまった。この樹脂は、学校から命令された地域ごとの採集で、この時分は、学校でも勉強はしなかった。男の先生は徴兵されてしまい女学校では女性を集めて授業をしていた。だから先生も不足し満足な授業は出来なかった。松の樹脂は南方で戦っている飛行機の燃料になるという話だった。すでに石油も不足していたのだろう。
島田地区の子どもは少数で、東京の家を焼かれた家族で親類の家に同居していた2歳年長の岩崎よしたか君が班長であった。
松の樹脂の採集を終わって家に帰ると、母が「戦争に負けた」と悔しそうに話したので、「やっと戦争から解放されると」と子供心にもほっとしたのだった。