夕方、病室のベッドの上にいたら突然電話が鳴った。
もちろん、電話はサイレントにしてある。
この病院の近くに住んでいる息子であった。
めずらしい。
大体、大学に行ってからは、数を数えたほどしか自分にはかけてこなかった。
咄嗟に、なんか頼みごとでもあるのか?と脳裏に浮かんだ。
金は無い。
ここでは電話できないので「こっちからかけなおすよ」と言った。
エレベーター前の自販機と椅子のある場所に行き、かけ直した。
そうしたら・・・・・
「仕事が早く終わったから、これから見舞いに行くよ、行きたいんだけど・・・・」と言った。
「えっ!」
僕は思いもしない言葉に戸惑った。
思いもよそに直ぐに「いいよ、この間来たばっかりだろ。そんな時間無駄にするなよ。家に帰りな。お父さんは心配ないよ。」
と言ってしまった。
裏腹な言葉だった。
内心は凄く嬉しかった。
僕に無い優しさである。
僕にそんな優しさは無い。
僕は自分の親にそのようなことは言った覚えが無かった。
少し会話をして「お父さんはもうちょっと時間がかかるね。みんなによろしくな」と言って電話を切った。
愛想の無い対応だったと思った。
それと共に、子供がいて良かった、と思った。
電話を切ったとたんに大粒の涙が出た。
窓の外の雲がかった夕日がとても眩しかった。・・・・とても自分を恥じた。
内視鏡検査があまり良くなかった。
落ち込んでいたので、ちょっと元気の出る出来事。
明日から新しい治療に入る。