諏訪山岳会公式ブログ

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剣岳周遊山行(前編)

2010年09月12日 | バリエーション・登攀

剣岳周遊山行 (前編)


日時:2010年 9月2~6日
参加メンバー:まっきー、U山
行動概要:
 9/2 黒四ダム~ハシゴ谷乗越~真砂沢ロッジ
 9/3 マイナースラブ(真砂沢ロッジから日帰り)
 9/4 六峰Dフェース富山大ルート(同上)
 9/5 真砂沢ロッジ~八ツ峰上半~剣~剣沢小屋
 9/6 剣沢小屋~雄山~一ノ越~黒部平駅
記録: 前編(9/2・3分) U山、後編(4~6日分) まっきー

今回、久々に、長期の(といっても5日)の山行に付き合ってくれるフレッシュな若いパートナーが得られたので、ついつい年甲斐もなく気が高ぶって、その挙句に、全装を背負ってマイナースラブから八ツ峰を縦走しながら六峰、チンネを継続するという、現実を無視して願望だけを紙に落とし込んだような計画書を会に提出してしまった。

が・・・出発の2日前に大方のパッキングを済ませたザックを背負ってみた時点で
この手の山登りを10年来やっていない現実を直視する必要性に気がつき、
願望と現実の妥協点を探り始めたのであった。

当初の計画で一番見えないのは、マイナースラブから八ツ峰下半の行程。
自分にとって全く未知のエリアなので、どれくらいの負荷になるなのかさっぱり想像がつかない。
ネットで得られた数少ない情報も、どちらかといえば苦労したものの方が多い。

そんなこともあって、この行程については真砂沢ロッジ定着で行うことに”心の中で密かに”変更したのであった。(状況によっては真砂沢定着に変更する旨を例会で伝えてあったので、あえて会に連絡は入れなかった。かっこ悪いし)

入山日の朝、それを知る由もないF倉チーフから「あきらめずに頑張れ」との旨の
ありがたいメールを頂戴したようであったが、我々はすでに黒部の谷の中。
そのメールを受信開封したのは下山日の行動中のことで、時には携帯圏外に身を置くことで悪意の無いプレッシャーから開放されのびのびと過ごせることを知ったのであった。



9/2 晴れ
5:30下諏訪出発。大町の、まっきーの実家に寄って親類のおばさんから譲っていただいたトロリーバスの優待チケットを受け取る(ありがとうございました)。

7:30始発のバスに乗車し、8:00に行動開始。
9月になっても一部に巨大スノーブリッジが残る黒部川に沿って歩く。内蔵助谷に入ると陽に照らされるしんどい登りに汗が滝のように流れるが、丸山基部を通り過ぎたあたりから適度に木陰と水場があらわれ、そのおかげで比較的順調に行程が進んで13:20ハシゴ谷乗越着。

乗越から少し下ると、明日登るマイナースラブが全貌をあらわした。ラッキーなことに、心配していたアプローチ(三の沢)の雪は見える範囲の上部には見当たらない。
壁はけっこう寝ているが、登攀距離はかなり長そうだ
おまけに、終了点から一峰までの遠いこと、遠いこと・・・


<マイナースラブ全景>

剣沢に降り立ち、三の沢の入り口を確認後、真砂沢ロッジに到着。
オーナーの佐伯さんはとても気さくで親切な方で、我々がマイナースラブを予定していると聞くと、いろいろとアドバイスをしてくれた。
最近はマイナースラブに取り付くパーティーは少ないそうで、今シーズンは我々で二パーティー目とのこと。

下降ルートについて尋ねると
⇒ 5・6のコルまで行くなら10時までにマイナースラブを終了していること。
⇒ 距離的に近いのは二の沢下降だが、ルートが複雑。
  ここを下った今シーズン最初のパーティーは帰幕が23時を回った
との回答。

これを聞いて、明日はマイナースラブから一峰を超えて一・二間ルンゼを下降する
という更に現実的なところに計画を縮小。一・二間ルンゼは計画書にも予備ルートとしてリストアップしておいたので、何かあっても探してくれるだろう。

この計画を佐伯さんにも伝え、就寝。

8:00 ダム ~ 9:20 内蔵助谷出合い ~ 11:30 内蔵助平 ~ 13:20 ハシゴ谷乗越 ~ 14:45 真砂沢ロッジ

9/3 晴れ後一時小雨
4:30ロッジを出発。三の沢入り口からアイゼンをはいて雪渓を10分も登るとF1につきあたる。シュルンドから右岸に降り立ち、左のガラガラのルンゼを途中からロープを出して1P上がるとビレイ点があり、ここから滝の落ち口めがけトラバースをすr。ルンゼを渡ったあとの最初の10mほどは岩がもろく浮石だらけで緊張するが、その先は広めのバンドになっていて、ところどころランニングも取れる。途中でロープを継ぎ足して約60mで落ち口に到着。

<F1>

その先、高巻きもまじえまがら沢を詰め7:30に取り付き着。
準備をして8:00登攀開始。

マイナースラブは全体を通して傾斜がゆるいので登る技術は容易だが、その分、残置類が少ないので、ルートファインディングや支点作成(ほとんどカムで対応)が要求される。さらに登攀距離の長さ(トポでは600m)や下降の面倒さ(後述)も含めると岩登りというよりは総合力を試されるバリエーションルートといったほうがふさわしいかもしれない。

1P~4Pはスタカットで登る。2P目が技術的には一番難しいように思えるがトポではⅢ+。



4P目あたりで、霧雨が小雨に変わったので雨具を着用。
5P目以降はぐんと傾斜が落ち、ビレイ点も判然としなくなってきたので、ランニングを取りながらのコンテにて核心下のピッチまで登る。



今回、まっきーの足回りは、軽量化を目的として、歩きも登攀もトレッキングシューズ一足で兼用なのだが、スラブ登りはどうもしっくりいかない様子。
そのため、核心のピッチ(Ⅳ)をリード中にどうしても踏ん切りがつかない場所に出くわし、U山にバトンタッチする。


時折小雨がぱらついたり、ガスで視界がきかなくなったりするなか、残り3Pにロープを伸ばして、13:00終了。
3時間の標準タイムを大幅にオーバーして5時間もかかってしまった。
天気がよければ、足元にした広大なスラブを見下ろして達成感のようなものを感じることができたのかもしれないが、今日はガスに包まれ、感慨も今ひとつ。
ただ、学生時代からウン十年の間、登ってみたいルートの一つとしていつも頭の片隅にあっただけに、登りきったこと自体に満足をすることにする。

時折切れるガスの合間から真砂沢ロッジが意外な近さで真下の方に見える。体に羽が生えていれば、一っとびでビールにありつけそうだ。

<真ん中のガスのあたりが真砂沢ロッジ>

昼食後、やせたヤブ尾根にロープを伸ばしマイナーピーク着。
ここではじめて一峰と正面から対峙したが予想以上の遠さにしばし唖然。ネット情報によればここからは先は藪漕ぎもきついようで、さらにピークからの下降支点の頼りなさげなことも手伝って、一峰超えは時間が読めないとして断念する

一旦終了点まで戻り、今度は地図と地形を見比べて二の沢下降を検討するものの、昨晩の佐伯さんの話を思い出すとどうにも踏切りがつかない

そんなこんなで最終的には”様子がよくわかっている”往路を下降することに落ち着いた。
終了点から少し下ったところから懸垂を開始して取り付きまで9ピッチぐらいだったろうか?
持ってきた捨て縄はほとんど使い切ってしまった。
おまけに異常に絡まり易い(と個人的には思っている)M社8mmロープがその性能を遺憾なく発揮してくれたお陰で大幅に時間をロスしてしまい、取付き到着が予定をはるかに超える17:40。

少しでも明るさの残るうちにF1を下りたいと気は急くが、滝の落ち口についたときが薄暮が消え去るまさにその瞬間であった。神に見放された不運をぼやきながらヘッデンをつけて、トラバースの準備をする。

暗闇の中でM社ロープにその性能を発揮されても困るので、まっきーの背負っていたロープを使うことにしたが、その成り行きでずるずると、何も考えないままに、経験の浅いまっきーがリードにとりかかることになってしまった。

暗闇に浮かぶまっきーのヘッデンの明かりを追うと、どうも正規ラインの一段上をトラバースしてしまっているようで、一本目のランニングから先けっこうランナウトしてしまっている。これを見て、このピッチ、本来ならU山がリードしなければならない状況だったことにはたと気がついたが、もう戻れと言える距離ではないので、まっきーを信じてロープを握る。

幸いにして、20mほど行った時点でピンが見つかったのでそこでビレイしてもらい、そのままつるべで入れ替わってトラバース終了地点に到着。そこから懸垂1Pの後、朝来たルンゼ・シュルンドを戻って雪渓の上に立ったときはさすがにほっとした

20:00ロッジ帰着。残業した我々を佐伯オーナーが暖かく迎えてくれる。
テント代わりに乾燥室を使わせてもらったばかりか、暖かいお湯の入ったポットまで差し入れてもらい、感謝、感激、雨あられ

乾燥室に張ったツエルトの中でシュラフカバーにくるまって今日のクライマックスの帰りのF1のトラバースのことを反芻する。

心残りだったのは、滝の落ち口に到着した時点で
・ビバークを検討する必要は?
・行くとしたら、誰がリードすべきか?
といったことにぱっと思いが至らなかった点。

時には危険と仲良くお付き合いしなければいけないこの手の山行に対して、直感力や判断力がついていっていないような気がする。これもブランクのせいかな?と思うが、なんだかんだ言っても自分が登山のリーダーとして未熟であることの証に他ならない。
今山行における最大の反省点である。

4:30 出発 ~ 5:10 三ノ沢 ~ 7:30 マイナースラブ取り付き着 ~ 8:00 登攀開始 ~13:00 終了 ~ 14:30 下降開始 ~ 17:40 取り付き着 ~ 20:00 帰幕

(後編に続く)




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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (岩ひばり)
2010-09-23 11:33:47
まっき~、早く続きが読みたいよ!
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Unknown (太田龍)
2019-07-11 11:35:29
はじめまして。慶應山岳部の太田と申します。
こちらのマイナーピーク東面スラブの記録について質問なのですが、
同ルート下降の懸垂支点は何を使われたのでしょうか?残置があったのでしょうか?

よろしくお願いいたします。
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Unknown (U山)
2019-07-12 05:43:21
太田さん
お問い合わせの件、インスタにも書きましたが、、懸垂支点は、灌木、残置ピン、自パーティで打ったピトンで下りました。一部、ビレイをしてクライムダウンしたところもありました。
ピトンに関しては、ルートのロケーションからみて、現在は雪崩で飛んで無くなっている可能性はあると思います。
私たちが登ったとき(秋)は、夏に登ったパーティのピトンが残っていた可能性があると、小屋のオーナーさんに言われました。
登りのアンカーも下降支点と同様、灌木、ピトン(打ち足し含む)+カム類ですが、カムはあまり使わなかった記憶があります。(ブログの記述と矛盾するが、どちらが正しい記憶があやふや)ランニングの残置物は少ないというか、必要な所にだけあるという感じで、ノーピンのピッチもいくつかありましたが、傾斜が緩いのでシビアな感じはありませんでした。
下りは下部の滝の通過(草付きトラバース)が日が暮れたこともあって嫌らしかったですが、日が高いうちに下るとしても、登りでピトンの位置をよく確認しておいた方がいいと思います。
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