先日の休みに映画を観てきた。
宮沢りえ主演のドラマ、"湯を沸かすほどの熱い愛"だ。
これまで自主制作映画で国内外で高評価を得た、
若手映画監督、中野量太氏の商業映画デビュー作で、脚本も同氏のオリジナル。
キャッチコピーは、"最高の愛を込めて、葬(おく)ります。"
なんだこのタイトル?
この映画の第一印象はそうだった。
しかもタイトルロゴというか題字が、お世辞にも上手いとはいえない毛筆。
(ひょっとしたら有名な書道家が書いているのかもしれないが・・・。)
ただ、主演が数々の賞を獲得している大女優、宮沢りえなのが違和感。
コメディなのか、はたまた家族ドラマなのか、チラシを見ただけでは判らなかった。
しかし、予告編を観て第一印象が取っ払われる。
これは・・・コメディのようであって、実はものすごい感動ものなのかもしれない。
なんとなく10年くらい前に観た、本木雅弘主演の名作、"おくりびと"を思い出した。
こりゃあ観なくちゃならん!
そう思い、公開前から観に行くと決めていたものの、
日曜が休みに固定されてからというもの、息子と遊ぶ機会が増えて観に行くことができず、
また、仕事帰りに観ようと思っても、帰宅時間と上映時間がうまいこと合わず、
そうこうしているうちに、公開終了が迫って来た。
もうこりゃ、今週の日曜逃したら観る機会がない!
あまり子ども向けな内容じゃないと思ったけれど、
R指定もない映画だし、まあいいかと思い、小六の息子を連れて観に行った。
栃木県にある銭湯、"幸の湯"。
だが一年前に、店主である幸野一浩(オダギリジョー)が突然いなくなり、休業中。
一浩の妻、双葉(宮沢りえ)は、パートをしながら、ひとり娘の安澄(杉咲花)と生活していた。
安澄は高校生。
クラスメイトに執拗ないじめを受けていた。
娘がいじめを受けていても学校へ送り出す双葉。
ある日、双葉はパート勤務中に倒れる。
数か月前から、味覚障害やめまいの自覚症状があった。
病院で精密検査を受け、担当医から告げられる。
「ステージ4の末期がんです・・・。」
末期の膵臓がんで、既に全身に転移。
余命二ヶ月と宣告される。
帰宅して銭湯の浴槽のなかで絶望に打ちひしがれる双葉。
だが、彼女は決意する。
死ぬ前にやらなければならいことがある!
・家出した夫を連れ帰り、銭湯を再開させる。
探偵の滝本(駿河太郎)に依頼し、一浩の居場所を突き止め、
そして押しかけ、連れ戻す。
浮気相手のアパートに居た一浩。
その相手との間にできた9歳になる女の子が居た。
既にその相手は一浩と娘を置いて行方をくらませていた。
そのため、一浩だけでなく、浮気相手との子である、鮎子(伊東蒼)も一緒に幸野家へ。
・娘を独り立ちさせる。
突然やってきた腹違いの妹に動揺する安澄だったが、
双葉は鮎子も自分の娘として受け容れる。
4人での生活がはじまり、銭湯の営業を再開。
いじめがエスカレートして、制服を隠され、とうとう学校に行かなくなった安澄。
荒療治のような手法で、強引に安澄をいじめに立ち向かわせる双葉。
鮎子は失踪した実の母の手紙を信じて、銭湯の売上をくすねて幸野家から姿を消す。
家族の問題を、強い愛情をもって解決していく双葉。
彼女に残された時間はあとわずか。
・娘をある人に会わせる。
一浩はのらりくらりとだが、銭湯をなんとか真面目にやり、
安澄もいじめに打ち勝って、
鮎子も双葉と安澄に心開いて、本当の母娘,姉妹のように打ち解けて、
家族がなんとかひとつになった頃、双葉が家族旅行を計画する。
銭湯を一浩ひとりに任せ、安澄と鮎子を連れて静岡へカニを食べにいく。
そこに住む、ひとりの女性に安澄を会わせ、すべてを話すのが目的。
レンタカーを借りて、双葉が運転し家族旅行がスタート!
だが、双葉の体はいよいよ病魔に蝕まれ、だんだんと体力が衰えていく。
食欲がなくなり、めまいや頭痛、手の痛み、さらには咳き込んで吐血し、
いよいよ死期が迫っていることを自覚していた。
安澄が会わされる意外な相手、そこで知らされる衝撃の事実。
そうして、強い愛で家族や周囲の人間の絆を深めて、双葉は旅立ってしまう。
双葉が荼毘に付されるとき、幸の湯の お湯は温かく沸くのだった・・・。
大号泣。
もう中盤あたりから、劇場のあちこちから、すすり泣きや鼻をかむ音が絶え間く聞こえる。
隣で観ていた息子も大号泣。
蓄膿症で風邪気味だったから、それで鼻すすってるんだと思っていたら、自分以上に号泣していた。
これはやられてしまった。
おくりびと以上に泣いた。
序盤から伏線が無数に敷かれ、
それが見事に回収されて、どんどん点と点が繋がっていき、
積もり積もって、大きな感動となって押し寄せてくる。
この脚本、巧過ぎだろ!
この監督、デビュー作でこれとは、末恐ろしいわ。
俳優さんたちの演技が最高だった。
主演の宮沢りえ、過去に母親をがんで亡くしていて、
そのときの想いを込めて演じたという。
終盤、もう歩くこともできずに、車いすでフラフラの演技、
ラストは病室でチューブに繋がれ、もう声も発せないような壮絶な状態。
リアルでがん患者を見たことはないが、きっとリアリティのある演技だったに違いない。
病気に蝕まれている演技も良かったけれど、
それよりも、娘たちと全力でぶつかるシーンが凄く良かった。
杉咲花ちゃん演じる安澄と、本気でぶつかるシーンも、
伊東蒼ちゃん演じる鮎子をやさしく抱擁するシーンも、
そして、後半に登場する拓海(松阪桃李)を母性で圧倒するシーンに、
君江(篠原ゆき子)と対峙するシーンも。
ダメ夫役のオダギリジョーとのやり取りも最高だった。
ぼくらの七日間戦争で観た美少女が、こんな素敵な大女優になるなんて。
宮沢りえ以上に圧巻だったのが、安澄役の杉咲花ちゃん。
ものすごい演技に息を飲んだ。
前に観た映画、スキャナー 記憶のカケラをよむ男や、
前のNHK連続テレビ小説、とと姉ちゃんでも彼女を見たけれど、
それらの演技を遥かに凌駕する迫真の演技が続く。
いじめを受けるとき,突然現れた妹に驚くとき,真実を明かされるとき,
そして、お母ちゃんと最後の会話を交わして病室を出るとき・・・。
彼女の演技のせいで、より泣かされたシーンが多々ある。
あと、童顔で華奢に見えるけれど、脱ぐと意外とむっちりしてるのね。
他の主だった出演者も皆すばらしかった。
オダギリジョーは、のらりくらりとしたダメ夫の役がハマっていい味出していた。
ラストにあんな憎いこと考えて、やられた!って思った。
そのオダギリジョーの浮気相手との間の娘、鮎子役の伊東蒼ちゃんも巧かった。
なにげない演技が、等身大の小学生らしくって良かった。
双葉や一浩に振り回されてしまう探偵、滝本役の駿河太郎、
真田十勇士のときには豪傑役だったが、まるっきり異なる役で面白かった。
幸野家に静岡から毎年カニを送ってくれる、君江役の篠原ゆき子さん。
たぶん初めて見た女優さん。
これまた複雑な境遇で、さらに聾唖(ろうあ)という難しい役をきれいに演じていた。
正直、松阪桃李は蛇足だと思った。
女性ばかりの旅に入れたアクセントなのかな。
メインの役者さんが凄かったのに対し、
端役の一部に、やたら大根な人が居たのが残念でならない。
安澄の担任やら、いじめっこ はじめクラスメートやら。
男子生徒の「牛乳です!」の棒読みはないだろ!?
銭湯の客なんかは、おそらくエキストラだろうから、それはまあ仕方がないか。
序盤で双葉が、安澄をスポーツブラと白の綿パンツから、
ふつうのブラジャーとショーツに切り替えさせようと、
それをプレゼントするシーンがある。
「まだいいよ!」と、恥ずかしがりながら、それを拒む安澄に対して、
「彼氏はいないの?大事な時にちゃんとした下着つけてないと恥ずかしいよ!」
下着を手に、そんな母娘の会話が繰り広げられる。
うわぁ・・・やっぱり息子を連れてくるんじゃなかった・・・。
そんなことを思う。
それ以外にも、いじめられた安澄が自ら下着姿になったり、
失禁した鮎子がパンツを脱がされたり、
拓海が行きずりの女性とのラブホテルでのエピソードをはじめたり、
小六の息子には如何なものだろうか?と思えてしまうシーンがいくつかあったけれど、
あれだけ感動して号泣してくれたのだから、まあいっか。
自分が小学生のとき、平気でセックスシーンのある映画とか観てたわ。
あの当時は地上波でゴールデンタイムのドラマや映画でも、
そういうシーン、普通に放映されていたからね。
食事の描写も多く、カニはもちろん、
観終わった後、しゃぶしゃぶが無性に食べたくなった。
サンドイッチも美味そうに食べていたな。
ビール好きにの人は、しょっちゅうプシュ!ってやってた、
オダギリジョーを見て喉を鳴らしてしまうかも。
タラバガニもズワイガニも毛ガニも食べたことがあるけれど、
劇中に登場するタカアシガニって食べたことがないや。
食べてみたいな。
とにかく、号泣してしまった感動作。
"湯を沸かすほどの熱い愛"。
ヘンなタイトルに最初は首をかしげてしまうけれど、
最後まで観れば、そのタイトルの意味すら泣けてしまう。
公開から一ヶ月経ち、上映数がグッと減ってしまい、
来月はじめには公開終了となる劇場も多い。
感動作と話題になっている作品だけど、観客動員数はイマイチな模様。
おくりびとや、八日目の蝉並に、ひとりでも多くのひとに観てもらいたいと思う作品だ。
鑑賞する際には、ティッシュとハンカチを忘れずに。
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