都会で大型犬が暮らすには、いろいろ気をつけなくてはいけないことが多いと思うが、今日の出来事には腹が立った。
いや、アタシというより、なっちが。
事の顛末はこうだ。
いつものように夜の散歩に出かけて、今日は少し遅い時間だったので、明るい商店街を歩いていると、向こうから会社帰りのサラリーマン風の人がこっちに向かって歩いてきた。
アタシはなっちの左側を、お行儀よく歩いている。
なっちは、アタシがその人のところに飛びかかったり(いきなり知らない人に飛びかかったりはしないけど!)、鼻をすりつけたりしては困るから、できるだけ左に寄って、通行人とアタシが接触しないようにして、さらにその人が歩くのに支障がないように避けようとした。アタシが知る限り、いつもなっちはそうやっている。なっちの肩を持つわけではないが、高級ホテルなどで、ホテルマンがお客に道をあけるのと同じくらいの丁寧さだ。
ところが、その人もアタシの寄った方に避けてしまった。
こういうことはよくあることで、お互いに気を配って同じ方に避けてしまって、お互いにバツが悪そうに笑みを浮かべて「あら、すみません」ってことになる。
ところがだ。その人はそこで立ち止まった。
だから、なっちはその人がアタシに興味を持って、ヨシヨシしてくれると思った。この街には犬好きの人が結構いて、毎日お散歩の度に、一度はそういう場面に出くわすからだ。そう、前に書いた「ラッキーパッセンジャー」だと思ったのだ。
そう思って、アタシもなっちもその人の顔を見上げた。
しかし様子がちょっといつもと違う。笑顔はまったくなく、表情のない顔でこちらを睨んで、猫背の感じでぶすっと突っ立っていたのだ。
なっちは、とっさになにかやばい感じがしたのだろう。営業が終わった店の扉の前の小さなスペースに避難して、アタシを大急ぎで呼び寄せた。
アタシは、なーんだ、つまんないなあと思いながらも、言われるままになっちの左ひざについた。
その男は、なおもこちらを睨みながら立ち尽くし(後ろから来た通行人の邪魔になっていたにもかかわらず)、こう言い放って歩き出した。
「あんたの責任なんだよ!」
なっちの頭の中で、数秒間はたくさんの「?」マークが飛び交ったのは想像に難くない。しかし、次には怒りがこみ上げてきたようだ。
「なにも悪いことしてないのにね。メイ、いい子だよ。こんど会ったら、あいつの尻ポケットからだらしなく飛び出てたウォークマンのイヤフォンをひきちぎってやろうね」
とか、
「冴えない中年男だよね、会社で何があったか知らないけど、あたしたちにあたるなんて、最悪!品性下劣男!」
とか言っていた。
その後のお散歩は、なっちはアタシにヤツ当たりするようなこともなかったけど、ムスっとして淡々と、義務的に足を動かしているようだった。
家に帰って、たるさに報告すると、新たな疑念がわいてきた。
「え、そいつって、髪を6:4に分けて、猫背で表情が無くて、ズボンのポケットからウォークマンのイヤフォンが出てたの?
そいつ、この間、駅ビルの店で店員に訳の分からない言いがかりをつけて、警官に取り押さえられてたヤツの風貌に似てるなあ。」
そうか、そういう男だったのか。
それを聞いて、なっちも少しは気分が軽くなったようだ。
しかし、とにかく、この街の問題児と同一人物であるにしろ、そうでないにしろ、世の中にはいろんな迷惑な人間がいるものだ。やれやれ。
いや、アタシというより、なっちが。
事の顛末はこうだ。
いつものように夜の散歩に出かけて、今日は少し遅い時間だったので、明るい商店街を歩いていると、向こうから会社帰りのサラリーマン風の人がこっちに向かって歩いてきた。
アタシはなっちの左側を、お行儀よく歩いている。
なっちは、アタシがその人のところに飛びかかったり(いきなり知らない人に飛びかかったりはしないけど!)、鼻をすりつけたりしては困るから、できるだけ左に寄って、通行人とアタシが接触しないようにして、さらにその人が歩くのに支障がないように避けようとした。アタシが知る限り、いつもなっちはそうやっている。なっちの肩を持つわけではないが、高級ホテルなどで、ホテルマンがお客に道をあけるのと同じくらいの丁寧さだ。
ところが、その人もアタシの寄った方に避けてしまった。
こういうことはよくあることで、お互いに気を配って同じ方に避けてしまって、お互いにバツが悪そうに笑みを浮かべて「あら、すみません」ってことになる。
ところがだ。その人はそこで立ち止まった。
だから、なっちはその人がアタシに興味を持って、ヨシヨシしてくれると思った。この街には犬好きの人が結構いて、毎日お散歩の度に、一度はそういう場面に出くわすからだ。そう、前に書いた「ラッキーパッセンジャー」だと思ったのだ。
そう思って、アタシもなっちもその人の顔を見上げた。
しかし様子がちょっといつもと違う。笑顔はまったくなく、表情のない顔でこちらを睨んで、猫背の感じでぶすっと突っ立っていたのだ。
なっちは、とっさになにかやばい感じがしたのだろう。営業が終わった店の扉の前の小さなスペースに避難して、アタシを大急ぎで呼び寄せた。
アタシは、なーんだ、つまんないなあと思いながらも、言われるままになっちの左ひざについた。
その男は、なおもこちらを睨みながら立ち尽くし(後ろから来た通行人の邪魔になっていたにもかかわらず)、こう言い放って歩き出した。
「あんたの責任なんだよ!」
なっちの頭の中で、数秒間はたくさんの「?」マークが飛び交ったのは想像に難くない。しかし、次には怒りがこみ上げてきたようだ。
「なにも悪いことしてないのにね。メイ、いい子だよ。こんど会ったら、あいつの尻ポケットからだらしなく飛び出てたウォークマンのイヤフォンをひきちぎってやろうね」
とか、
「冴えない中年男だよね、会社で何があったか知らないけど、あたしたちにあたるなんて、最悪!品性下劣男!」
とか言っていた。
その後のお散歩は、なっちはアタシにヤツ当たりするようなこともなかったけど、ムスっとして淡々と、義務的に足を動かしているようだった。
家に帰って、たるさに報告すると、新たな疑念がわいてきた。
「え、そいつって、髪を6:4に分けて、猫背で表情が無くて、ズボンのポケットからウォークマンのイヤフォンが出てたの?
そいつ、この間、駅ビルの店で店員に訳の分からない言いがかりをつけて、警官に取り押さえられてたヤツの風貌に似てるなあ。」
そうか、そういう男だったのか。
それを聞いて、なっちも少しは気分が軽くなったようだ。
しかし、とにかく、この街の問題児と同一人物であるにしろ、そうでないにしろ、世の中にはいろんな迷惑な人間がいるものだ。やれやれ。