先生との出会い(10)― ライフガード(5)溺れるカップル ―(愚か者の回想四)
「先生との出会い」はファンタジーです。実在する団体及び個人とは一切関係ありません。
「あの人たちは女性が怖がっているのに中央あたりから入ろうとしていたんです。私が注意すると、『うるせいな。泳げるよ。』と言ったのです。女性も『泳げるわよ、失礼ね。』と言ったのです。」と事情を説明してくれた。
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女性とお仲間たちは浅いところで泳ぎ始めた。パトロールのとき確認のため眺めたがおよそ泳げると言える状態ではなかった。それは男性諸氏も同じであった。
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このときだけでなく、この種の出来事は頻繁に起きた。男女各1名のカップルらしき二人連れが深いところから入ろうとしているときには要注意だった。
もちろん、「そこは深いですよぉ~。」と注意を促すが、ほとんど反応はない。
「泳げるよ!」とチーフのときのように攻撃的な態度をとる人もいたが私はチーフのようにはできなかったし、しなかった。
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男性は足の届かない女性に抱きつかれるのを期待しているようにも見えた。
女性もそうしてじゃれたいのだろう。実際、そういう場面を何度も見た。他でやってくれと言いたい。
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だが、抱きつかれた男性はほぼ100%が沈んだ。
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あの事件程悪質ではないので私はパトロールを呼びカップルの近くで待機してもらった。
パトロールには文字表現のブロックサインで「その二人抱き着いて溺れます。よろしく。」と伝えた。
監視員にすぐそばに立たれると不快に感じる人もいる。そういう人に限って、それを嫌って泳ぎだすのである。
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やはり溺れた。
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この種の人たちは実際に溺れてみないとライフガードの言うことには従ってくれない。ときには男性より女性の方が泳げる場合がある。
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チーフがあそこまでやるのを見たのは初めてだった。チーフは某大学の4年生で、ライフガード歴もそのくらいである。水泳選手という体格ではなく、どちらかと言えば小柄で地味な雰囲気の人であった。
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出入口から入場しプールに直行する人の中には水深を知らない人が多い。あの女性もそうだった。
あの女性が水深を知らないことを知っている男たちが悪ふざけをしようとしたらしい。これをチーフは見破った。
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人が「泳げる」と言う場合、その「泳げる」の程度は様々だ。本当に泳げる人は本当に泳げる。だが、水底に足を付けながらバチャバチャと手を動かして進む人や50メートルくらいなら本当に泳げる人も足が付かないところでは泳げなくなる人がいる。この女性も全く泳げないわけではなかったのかもしれない。だから「泳げるわよ、失礼ね。」と言ったのだと思う。
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しかも、監視台からメガホンで浅いところへ移動するよう声を掛けられれば体裁が悪いのだろう。「泳げるわよ、失礼ね。」とも言いたくなる気持ちは分かる。しかし、あのまま水深2メートルのプールで泳ぎだしたら必ず溺れていただろう。
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ちなみに、当時、学校体育では水泳検定(?)というのがあった。私が溺れたのもこの検定会だった。
体育の授業なので泳げないと成績が低くなる。今の事情は知らないが私はいつも「3」なので気にもしなかった。
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教諭も子供に自信を付けさせようと「じょうず、じょうず、泳げた、泳げた。」とほめる。しかも、25メートルとか50メートルなどと検定合格証まで出していた。私は25m泳げることになっていた。この水泳検定には問題があるように感じていた。
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彼女もこのレベルでは泳げると自信を持っていたのだと思う。
しかし、「泳げます。」と強がってはいたものの、「水深5メートルです。」と告げられて怖くなったのだろう。
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このチーフのようになりたいと思った。
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帰宅すると私宛の封書が来ていた。「プールをやめなければならないか。」と、そう思わざるを得ない内容だった。
(つづく)
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