ちょっと前まで即興演出のとんがった映画を撮っていたホン・サンスが、最近はモノクロ基調のちゃんとシナリオのある映画を作るようになってきた。そのホン・サンスがまだ即興を映画作りに取り入れる以前に撮られた本作は、デビュー4作目にあたるそうだ。
1本の映画の中で同じようなストーリーが2度反復する構成は、この監督の映画が癖になってしまっている方ならば、もはや毎度お馴染みといえるのかもしれない。それはジェームス・ジョイスの『ユリシーズ』に描かれる“反復”同様、主人公の売れない俳優ギョンス(キム・サンギョン)のどこにもいけない停滞感とリンクしているのである。
『ユリシーズ』が『オデュッセイヤ』と対をなしているように、本作は韓国の観光名所としても有名な清平寺に伝わる故事がベースになっている。なので、思いを寄せているダンサーを後輩ギョンスに寝とられてしまう先輩の説明をちゃんと覚えておいた方がよいだろう。ギョンスのように決して欠伸をこきながら聞き流してはいけないシーンなのである。
そしてもう一箇所。先輩とギョンスそしてダンサーのミョンスクと3人が乗った白鳥ボートに近寄ってギョンスにライターを借りにくる男の顔をよく覚えておくと、あっと驚くホン・サンスマジックを後々堪能することができるにちがいない。キャン・ユー・スピーク・イングリッシュ?このちょっとしたひねりに、なんともいえない映画センスを感じてしまうのである。
しかし基本的には、女にもてることだけが取り柄の、金なし&人徳なしのダラチン男が、チ◯ポを役立たずのヘビ?に変えられてしまうおとぎ話なのでご安心を。占い師に見事本質を言い当てられたギョンスは、雷雨の中ターニングゲートを一周してまたもときた場所へ戻っていくのである。人生目的地に早くたどり着くことだけが能じゃないことを知る者には、そのギョンスの停滞ぶりがなんとも心地良さげに見えるのだ。
気まぐれな唇
監督 ホン・サンス(2002年)
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