19世紀イギリスに生きた女性古生物学者メアリー・アニング(ケイト・ウィンスレッド)は実在の人物。ワーキング・クラス、貧困、女性という3重苦+レズビアンというキャラを追加したのは、ゲイであることをすでに公表している監督フランシス・リーの創作だという。地質学者でもあるシャーロットと交流があったのは事実らしいが、そういう関係にあったというのはまったくのでっちあげで、アニングの親族からクレームもあがったという。
本作の製作にはBBCも絡んでいるので、おそらくそんなことは重々承知の上でGOサインを出したと思われる。その証拠に“事実に基づいているストーリー”のクレジットはどこを探しても見当たらない。本作はむしろ、誰もが認める古生物学者としての才能の持ち主であるメアリーが女性であるが故に名前を表に出すことが許されない、当時の男性優位社会にあからさまな敵意をむき出しにしたフェミニズム作品なのである。
フェミニズム女優のシアーシャ・ローナンが相手役をつとめた本作品をはじめは敬遠していた私だが、社会的弱者にむける眼差しの優しさには定評のあるフランシス・リーだけに、本作品には単なるフェミニズム・ムービーの枠にはおさまらない普遍性を感じるのである。タイトルにも冠せられている泥に埋もれた“アンモナイト”は、(女性性器を連想させる“貝”から引用した)ライム村のお土産店に身を潜めるように暮らしている天才古生物学者メアリー・アニングのメタファーであろう。
化石を店に買い求めにやってきたロデリックは、奥さんのシャーロットに対しては終始「お前は黙ってろ」の高圧的態度をみせる。そんなロデリックの下らない質問を“糞”よばわりしたかと思えば、「女にだってできるのよ」とばかり海辺ですわりション。くんずほぐれつの全裸プレイ♥️はお約束としても、シャーロットの自宅に招かれたメアリーが、自ら発掘した化石がガラスケースに飾られている大英博物館を往訪するラストがなんといっても秀逸なのだ。
ズラリと飾られた男性生物学者の肖像画の前で脚をとめたメアリーの頭が、ちょうど後ろ向きの状態でその一枚の絵の肖像と重なるのである。肖像画が飾られるにたる実績がありながら、顔を表に出せない女性の弱い立場の暗喩であろう。そして、挑むような視線を投げつけながらガラス陳列ケースをはさんでメアリーと対峙するシャーロット。"ガラスの天井"を突き破る勇気を持ちなさいとメアリーに促すシャーロットなのであった......
アンモナイトの目覚め
監督 フランシス・リー(2020年)
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