ネタばれせずにCINEるか

かなり悪いオヤジの超独断映画批評。ネタばれごめんの毒舌映画評論ですのでお取扱いにはご注意願います。

オシムの言葉

2008年05月23日 | 映画評じゃないけど篇
身長190cmのイビチャ・オシムが日本代表の監督に選ばれた時の記者会見場で、記者の質問をはぐらかす不明瞭な回答やニヤニヤ笑いを見て、「変なオッサンやなぁ」という印象を持った人もきっと多かったはず。本書を読むと、そういった態度をとったオシムの真意がとてもよく理解できる。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の最中、ユーゴスラヴィア代表を率いてつらい戦いを強いられたオシムにとっては当然のことだったのだ。自らの不注意な言動が、政治的プロパガンダに利用されたり、マスコミに歪曲されて報道された挙句、選手や家族・関係者に多大な迷惑を及ぼすことを、身をもって経験させられたからなのである。

スポーツライター・木村元彦氏の手による本書は、イビチャ・オシムの自伝的要素が強く、サッカーに造詣が深い方ならより楽しめるマニアックな内容にも踏み込んでいる。ユーゴスラヴィアサッカーへの筆者の思い入れが行間からほとばしり出る筆致は、温暖化の昨今では少々熱苦しいきらいもあるが、読者にビンビンと伝わってくるオシム本人と教え子たちのサッカーへの限りない情熱は心地よくさえある。あまりにもオシム礼賛色が強いため、オシムに批判的な人を登場させるなどして中立化をはかっても良かったと思うくらいだ。

かつて川渕チェアマンがベンゲルに次期監督の要請に行ったところ、「日本にはオシムがいるだろう」とアドバイスを受けたという。数学教授の資格も持つオシム監督は「しょうがない」といって責任の所在をあいまいにしたまま物事を進めようとする日本人の本質を見抜く鋭い洞察力を持ちながら、スポンサー圧力による有名選手登用を嫌い、若手選手にも平等にチャンスを与える中庸の人だったらしい。「ロナウドやジダンは11人もいらない」エキストラキッカーよりも走れる選手を重要視したオシム・サッカーの真髄を知るには、ひたすらボールのみを追っかけるTV中継だけでは土台無理な話なのだ。

いずれにしても、オシムが世界有数のサッカー指導者であったことは疑いようがなく、トルシェの管理サッカーやジーコの自由放任サッカーと比しても、格段にレベルが高いことをやろうとしていたことは本書を読んだ限り間違いがなさそうだ。志半ばで脳梗塞に倒れたオシムは現在も日本国内でリハビリを続けているという。惜しむらくは、銀河系軍団監督の席をけってまで日本に来てくれたオシム・サッカーの完成型を是非W杯で見てみたかった気もするが、今はただシュワーボ(ドイツ野郎という意のオシムの愛称)の1日も早い回復を祈るだけである。

著者 木村元彦(集英社文庫)
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