意思による楽観のための読書日記

夜這いの民俗学・夜這いの性愛論 赤松啓介 ***

まったく愉快な、ある意味痛快な民俗学である。「天皇、やくざ、性を取り上げない柳田国男の民俗学などちゃんちゃらおかしい。白足袋で人力車に乗ってきたような先生に本当のことなどしゃべるものか、自分は若衆の仲間に入れてもらい農村で夜這いを経験した。街では丁稚奉公してオイエサンやゴリョウニンサンにかわいがってもらった。」こんなことを言う民俗学者がいるだろうか。上野千鶴子は解説でこう言っている。「赤松さんは語り部である。語りは騙りでもある。こんな話なら騙られても構わないと思わせる魅力を彼の語りは持っていた。」

農村では13才から15才になると男の子は若衆の仲間になる。その時にはベテランの後家か40才以上の嬶が相手をするという。一方33才の厄落としという習慣があり、女性が33才になるときに若い男性と交わり厄を落とす。これを組み合わせることがあり、若衆入りの若者が33才の嬶と組み合わせられる。筆者の経験である。村の外れにあるお堂で待つようにと、村の嬶に指示されたので待っていると五目寿司を持った女性が来た。村のシキタリだということで、西国33箇所の御詠歌を上げる。カネは小さく叩いて外に音が漏れないようにし中山寺で小休止、雑談して再開、これを二回繰り返す。すると「外で出しておいで」と言われる。小便である。帰ってくると布団が敷かれていて同衾する。ここで柿の木問答をする。「あんなところに柿の木がある。私が上がってちぎってよろしか」「はいよろし」といいながら抱き寄せ、ひたい、下がって口にキスをする。「よう実がなりますか」と聞くと「はいようなります」と応えて胸を広げてお乳を見せてくれる。じっとしていると乳首を吸わせてくれる。初対面の男女がぎこちなさを紛らわす方策なのだという。33才の厄落としは播州から関西の河内でも行われ、河内では生駒詣りとなっていた。播州では清水寺で摂津、丹波、播磨の国境にある寺である。こうして若衆入りした者は夜這いを始められる。

村によっては村の若衆に限っているところもあれば、他の村にも開放しているところもあったという。開放の方法も、娘や後家、女中だけを開放していたり、若衆と娘、独身の女中だけと限定する場所もあった。女の子の「腰巻始め」、「カネ付祝い」など13才になると初潮の時期と絡めてお祝いをした。それ以降は娘宿の仲間入りである。村と若衆での取り決めでありその村の人に聞かなければ分からないのでよそ者は参加できない。ある村では女たちがお互いに「南・無・阿・弥・陀・仏」と片手の平に書く。若衆もそれぞれ書いて双方手のひらを見せ合って相手を決める。仏同士は本尊さんなので、嫌でも相手を変えられないが、家族同士が当たった場合には変えられる。組み合わせが決まると般若心経を二回唱え、西国33箇所の御詠歌を合唱する、これにも京流、河内流、大和流などがあり、御詠歌では播磨や河内だと中山寺で小休止、御詠歌が住むと小便タイムである。帰ってくると床の用意ができていて南無阿弥陀仏の順に並んで寝屋に入る。ここでも柿の木問答である。

こうした習慣がなくなったのは大正から昭和にかけて、生まれで言えば明治生まれまでで、農村での作業機械化による共同作業である結(ゆい)の減少と、中学、高校の教育によるという。結では近隣の男女が共同作業する機会と場所が提供され、持ちつ持たれつの世界があった。機械化はそうしたチャンスを減らした。教育は一夫一婦制、男女関係の道徳を教えた。これは明治維新以降、政府が税収増を目指して、遊興の産業化を図ったことと関連しているという。夜這いで気がすめばGDPは増えない。女郎屋、酒場で売上があれば納税があるというのだ。町でも丁稚制度、女中制度は夜這いの温床だったという筆者であるが、近代化は丁稚を小店員に、女中をお手伝いさんに変化させ、夜這いの土壌もなくなった。

ちなみに、丁稚はX吉、手代にはX助、X七、番頭にはX之助、X蔵などと名付けられ呼ばれた。女中では庭働きの下女中はおXどん、中女中にはX枝さん、上女中はX子さんと呼ばれた。気安く呼ぶときには丁稚どんはボンサンと呼ばれたが、お坊ちゃんはボン、坊主はボーサンである。

とにかく、こうしたB級民俗学も面白い。特にこの赤松さん、生前に会ってみたかった。
夜這いの民俗学・夜這いの性愛論
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