私は石原慎太郎の本は、この本と、『わが人生の時の人々』しか読んでいない。
私は特に石原慎太郎のシンパでもなんでもないが、また政治家としての彼には全く興味も関心もないのだが、この『わが人生の時の時』は大変面白く、私の愛読書の一つとなっている。
『時の時』とは、普段の日常生活から遊離した『特別な・特殊な体験をした時』という意味だろうが、この言葉は何処か外国の作家の小説か何かから引用した・・・ということを昔、ある人から聞いたが、その作家は忘れてしまった。(先日、ノーマン・メイラーだと知った。)
この『わが人生の時の時』は石原慎太郎の40件の実体験が、ショートショート風に書かれている。日常の生活の中で不意に遭遇した非日常的体験談であるが、これが実に面白い。
私は内田百けんの、いつかの短編が好きだが、『日常性の中において不意に遭遇する非日常性への疎外感』という点で、この石原慎太郎の体験談は共通している。海が
主題となっているから、今読むには最適な短編集だろう。
彼の体験談は『罔(くら)』くはないが、ある種の不気味さは、内田百けんの短篇と共通したものがある。例えば、『ライター』と題された体験談などは、ちょっと冷やりとした怪異さがあり、この体験談が本当なら( -本当だろうが-)薄気味悪い。
私は怪談噺は嫌いなほうではなく、例えば野村胡堂の怪談集『影を踏まれた女』など愛読していたが、あいにく、この本は紛失してしまった。
怪談は今は最適な季節。ちょっと気味悪い話が好きなかたは、この『わが人生の時の時』を一読してもよいだろう。石原慎太郎という強面の都知事からは、ちょっと予想できない「感性」をこの人に見るだろう。
怪談に話が進んだので、時期はずれだが、私の好きな怖い俳句をここで紹介しよう。
これは実は芥川龍之介が紹介している怖い俳句である。
・池西言水(『点心』より、芥川龍之介)
「御忌(ぎょき)の鐘皿割る罪や暁(あけ)の雲」
「つま猫の胸の火や行く潦(にはたづみ)」
「夜桜に怪しやひとり須磨の蜑(あま)」
「蚊柱(かばしら)の礎(いしずえ)となる捨子(すてご)かな」
「人魂(ひとだま)は消えて梢(こずえ)の灯籠(とうろ)かな」
「あさましや虫なく中に尼ひとり」
「火の影や人にて凄き網代守(あじろもり)」
・芭蕉(『芭蕉雑記』より、芥川龍之介)
骸骨の画(え)に
夕風や盆桃灯(ぼんぢょうちん)も糊(のり)ばなれ
本間主馬(しゅめ)が宅に、骸骨どもの笛、鼓をかまへて
能する所を画(えが)きて、壁に掛けたり(以下略)
稲妻(いなずま)やかほのところが薄(すすき)の穂
私は特に石原慎太郎のシンパでもなんでもないが、また政治家としての彼には全く興味も関心もないのだが、この『わが人生の時の時』は大変面白く、私の愛読書の一つとなっている。
『時の時』とは、普段の日常生活から遊離した『特別な・特殊な体験をした時』という意味だろうが、この言葉は何処か外国の作家の小説か何かから引用した・・・ということを昔、ある人から聞いたが、その作家は忘れてしまった。(先日、ノーマン・メイラーだと知った。)
この『わが人生の時の時』は石原慎太郎の40件の実体験が、ショートショート風に書かれている。日常の生活の中で不意に遭遇した非日常的体験談であるが、これが実に面白い。
私は内田百けんの、いつかの短編が好きだが、『日常性の中において不意に遭遇する非日常性への疎外感』という点で、この石原慎太郎の体験談は共通している。海が
主題となっているから、今読むには最適な短編集だろう。
彼の体験談は『罔(くら)』くはないが、ある種の不気味さは、内田百けんの短篇と共通したものがある。例えば、『ライター』と題された体験談などは、ちょっと冷やりとした怪異さがあり、この体験談が本当なら( -本当だろうが-)薄気味悪い。
私は怪談噺は嫌いなほうではなく、例えば野村胡堂の怪談集『影を踏まれた女』など愛読していたが、あいにく、この本は紛失してしまった。
怪談は今は最適な季節。ちょっと気味悪い話が好きなかたは、この『わが人生の時の時』を一読してもよいだろう。石原慎太郎という強面の都知事からは、ちょっと予想できない「感性」をこの人に見るだろう。
怪談に話が進んだので、時期はずれだが、私の好きな怖い俳句をここで紹介しよう。
これは実は芥川龍之介が紹介している怖い俳句である。
・池西言水(『点心』より、芥川龍之介)
「御忌(ぎょき)の鐘皿割る罪や暁(あけ)の雲」
「つま猫の胸の火や行く潦(にはたづみ)」
「夜桜に怪しやひとり須磨の蜑(あま)」
「蚊柱(かばしら)の礎(いしずえ)となる捨子(すてご)かな」
「人魂(ひとだま)は消えて梢(こずえ)の灯籠(とうろ)かな」
「あさましや虫なく中に尼ひとり」
「火の影や人にて凄き網代守(あじろもり)」
・芭蕉(『芭蕉雑記』より、芥川龍之介)
骸骨の画(え)に
夕風や盆桃灯(ぼんぢょうちん)も糊(のり)ばなれ
本間主馬(しゅめ)が宅に、骸骨どもの笛、鼓をかまへて
能する所を画(えが)きて、壁に掛けたり(以下略)
稲妻(いなずま)やかほのところが薄(すすき)の穂