・ひとつめ。
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あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音<あしおと>空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍みどりにうるほひ
廂々に
風鐸のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃<いし>のうへ
(三好達治)
・ふたつめ。
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秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があって、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射しているのでありました。
陽といっても、まるで珪石か何かのようで、
非常な個体の粉末のようで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもいるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでいてくっきりとした
影を落としているのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもいなかった川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れているのでありました……
(中原中也)
・みっつめ
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わが為は 墓もつくらじ-。
然れども 亡き後(あと)なれば、
すべもなし。ひとのまにまに-
かそかに ただ ひそかにあれ
生ける時さびしかりければ、
若し 然(しか)あらば、
よき一族(ひとぞう)の 遠びとの葬(はふ)り処(ど)近く-。
そのほどの暫しは、
村びとも知りて、見過ごし、
やがて其(そ)も 風吹く日々に
沙(すな)山の沙もてかくし
あともなく なりなんさまに-。
かくしこそ-
わが心 しずかにあらむ-。
わが心 きずつけずあれ
(釋超空)
****
これらの詩は私は今でも、ほぼ暗唱できる。
これらの詩を知ったのは二十歳前だった。
私にも二十歳前があったのだ!!
私の部屋の窓から新緑の木々が見える。
それらの木々の初(うい)初しい葉が薫風に揺れている。
また麦秋の季節がやってきた。
田んぼに張られた水が陽にキラキラと反射して美しい。
(この雑文を書いたのは一ヶ月ほど前だ。今、たんぼを見ると稲の新芽が
だいぶ伸びていて、やわらかな風に揺れている。)
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あはれ花びらながれ
をみなごに花びらながれ
をみなごしめやかに語らひあゆみ
うららかの跫音<あしおと>空にながれ
をりふしに瞳をあげて
翳りなきみ寺の春をすぎゆくなり
み寺の甍みどりにうるほひ
廂々に
風鐸のすがたしづかなれば
ひとりなる
わが身の影をあゆまする甃<いし>のうへ
(三好達治)
・ふたつめ。
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秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があって、
それに陽は、さらさらと
さらさらと射しているのでありました。
陽といっても、まるで珪石か何かのようで、
非常な個体の粉末のようで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもいるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それでいてくっきりとした
影を落としているのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもいなかった川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れているのでありました……
(中原中也)
・みっつめ
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わが為は 墓もつくらじ-。
然れども 亡き後(あと)なれば、
すべもなし。ひとのまにまに-
かそかに ただ ひそかにあれ
生ける時さびしかりければ、
若し 然(しか)あらば、
よき一族(ひとぞう)の 遠びとの葬(はふ)り処(ど)近く-。
そのほどの暫しは、
村びとも知りて、見過ごし、
やがて其(そ)も 風吹く日々に
沙(すな)山の沙もてかくし
あともなく なりなんさまに-。
かくしこそ-
わが心 しずかにあらむ-。
わが心 きずつけずあれ
(釋超空)
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これらの詩は私は今でも、ほぼ暗唱できる。
これらの詩を知ったのは二十歳前だった。
私にも二十歳前があったのだ!!
私の部屋の窓から新緑の木々が見える。
それらの木々の初(うい)初しい葉が薫風に揺れている。
また麦秋の季節がやってきた。
田んぼに張られた水が陽にキラキラと反射して美しい。
(この雑文を書いたのは一ヶ月ほど前だ。今、たんぼを見ると稲の新芽が
だいぶ伸びていて、やわらかな風に揺れている。)