ナポリタン

ナポリタン。
それは、私が学生時代、コーヒー専門店以外の喫茶店には必ずあったケチャップ炒めのスパゲティである。
「パスタ」なんて気取った呼び方がばっこする前の話である。

土曜日にテレビで作っているのを見て、夫が
「久しぶりに食べてみよう」というので作ってみた。
そんな話を節子さんとしていると
「私は、ダンナと知り合うまでスパゲティも、ピザも、納豆も食べたことがなかったわ。」という。
私より５歳上の節子さんなのに、スパゲティを食べたのは昭和５０年を過ぎてからだというのだ。
色々とびっくりするエピソードの多い節子さんだが、これにもまたびっくり！
山の中で、おばあちゃんに育てられた節子さんたち兄弟の食事は、自給自足の野菜中心のものだったらしい。
田舎のその家から出たことのないおばあちゃんの作る料理にカタカナのものはない。
学校の給食が楽しみで、給食で初めて口にする物も多かったという節子さん。
会社勤めを始めて、ご主人と知り合い、デートで生まれて初めて喫茶店に行き、そこで初めて食べたスパゲティが「ナポリタン」だったのだ。
ケチャップが嫌いなご主人は、ピラフかあればミートソーススパゲティを食べていたそうだが、節子さんが頼むメニューはいつもナポリタン。
節子さんは、ナポリタンを一口食べて、世の中にこんなに美味しい料理があるのか、と目の覚めるような思いがしたそうな。

なんということのないケチャップ炒めのスパゲティにも、節子さんには深い思い出が詰まっている。
私には、そんな思い出が詰まっているような料理ってあるのかな、とふと考え込んでしまった。