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今日の筆洗

2023年01月21日 | Weblog
谷川俊太郎さんに『兵士の告白』という詩がある。冒頭から途中まで記す▼「殺スノナラ 名前ヲ知ッテカラ殺シタカッタ 殺スノナラ 一対一デ殺シタカッタ 殺スノナラ 機関銃ナンカデナク 素手デ殺シタカッタ 殺サレル者ヨリモ殺ス者ノ方ガ 何故コンナニ不幸ナノカ ソノワケヲユックリト囁キナガラ 殺シタカッタ」。それが難しいのが戦争の現実だから、詩は生まれたのだろう▼チャールズ英国王の次男ヘンリー王子(38)が自伝で、陸軍時代にアフガニスタンでイスラム主義組織の兵二十五人を殺したと告白した。「人間と思ったら殺せない。彼らはチェス盤から排除された駒だ」▼どぎつい表現だが、敵は自分たちとは異質だと教えたのは軍だろう。自伝には「私は彼らを“他者化”するよう訓練された」とある▼人は本来、殺人を嫌う。米陸軍士官学校で教えたデーヴ・グロスマン氏の著書によると、戦場で発砲した米国のライフル銃兵は第二次大戦で約二割だった。人型の的が飛び出たら撃つ訓練を繰り返し条件反射で殺せる兵を育てるなどし発砲率はベトナム戦争で約九割に。感情は戦の邪魔と、人工知能(AI)搭載兵器を開発する国もある▼詩はこう続き、結ばれる。「殺スノナラアアセメテ ナキナガラ殺シタカッタ」。涙する優しさがあるのに、涙なき殺人ロボにも関心を抱く人間。何とも業が深い。