<ぼくの髪が肩までのびて>は吉田拓郎さんの「結婚しようよ」。<就職が決まって髪を切ってきたとき>は「『いちご白書』をもう一度」。作詞は荒井由実さん。一九七〇年代のフォークソングには、髪の長い男性がよく出てくる▼この歌の影響もあるか。米フォークロック、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの「オルモスト カット マイ ヘア」(七〇年)▼ベトナム戦争の時代、髪の短い兵士との対比で髪を伸ばすことが自由の象徴であり、無個性な歯車になることへの抵抗だった▼<髪を切るところだった>。現実社会の中で髪を伸ばし続ける難しさ。その歌はカウンター(反体制)カルチャーを象徴する一曲となった。歌っていたデビッド・クロスビーさんが亡くなった。八十一歳。政治的メッセージ性の強い歌と歌声を思う▼最近の写真を見る。真っ白でさみしくなっているが、髪は伸ばしたまま。老いてもあの時代と変わらず歌で世界を変えたいと願ったか。少々、くたびれた長い髪が物語る。心臓の病と闘いながら、最近まで作品を発表し続けた▼「木の船」を聴き直す。六九年、伝説のウッドストック・フェスティバルで演奏した。核戦争後の荒涼とした世界を木の船で漂う。<誰が勝ったか教えてくれるかい>−。勝者なき核戦争を痛烈に皮肉る。半世紀も前の歌が今なお意味を持つ。悲しいことに。