東京・銀座の路上で一九八〇年、トラック運転手の大貫久男さんが風呂敷に包まれた現金一億円を拾い、警察に届けた。報道は過熱した▼二〇〇〇年に亡くなったが、拾った当時は四十代。届けてから一定の期間が過ぎ、所有権を得た。従来の持ち主が現れなかったため、表に出せない選挙資金説やら仕手戦の資金説やらが飛び交った▼札幌市の資源ごみ回収施設で一月末、回収された雑紙類から現金一千万円が見つかった。警察が発表すると「落としたのは私かも」と名乗り出た人が十人を超え、その多くは正式な遺失届も出したという。持ち主が姿を現さないと臆測を呼ぶが、心当たりのある人がこう多くても戸惑いを覚える▼報道によると「旅行中になくした」「認知症の親が誤って捨てたと思う」「クローゼットにしまった一千万円がない。ごみとして捨てたかも」などと言っているという。落とし主が四月末までに判明しないと所有権は拾い主の市に移る▼作家の関川夏央さんは、没した人々の生前を描いた著書『人間晩年図巻2000−03年』で大貫さんを取り上げた。それによると一億円に課された税を納め、マンションを購入。拾ったお金について、こう語っていたという。「コツコツとマジメに働いていた、わたしへの“天からの恵み”だと思っています」▼札幌のお金は誰の元へ行くべきか、天に聞きたくなる。