昭和のはじめ、日本銀行は裏面が白い二百円札を発行した。金融機関への疑心暗鬼が広がって人々が預金を下ろしに各銀行に押しかけ、急いでお札を刷る必要に迫られたため、片面のみの印刷にしたという▼大正末期の関東大震災で返済が猶予された「震災手形」の不良債権化が発端。手形を抱える銀行の経営が不安視された。日銀の非常貸し出しを機にいったん騒ぎは沈静化に向かうが、神戸の商社の経営危機で再燃し、全国の銀行が一斉に臨時休業した二日間を利用し「裏白銀行券」を刷った。銀行再開時、店頭に山積みになった紙幣に人々は安心し、やがて騒ぎも収束したという▼米国発の金融不安の行方が少し心配である。今月、米中堅銀行が破綻した▼利上げで米国債の価格が下落し、これを所有する銀行が含み損を抱えたほか、顧客の企業が業績悪化で預金を取り崩したという。別の米銀行も破綻。欧州でも経営が悪化した金融大手が他社に買収される▼過剰な心配は戒めたいが、各国とも飛び火した場合に備え、問題銀行への公的資金投入や一時国有化などの方策を事前に練っておくべきだという評論を読んだ。いざという時には政府や中央銀行が素早く方針を発表し、人々を落ち着かせることが何より大事である▼かつてのように裏白銀行券を店頭に積むことまではせぬとも、安心の「裏付け」となる策は確かにいる。