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今日の筆洗

2023年03月30日 | Weblog
句会でご一緒させていただいている女優の吉行和子さんに以前、こんなことをお尋ねした。「女優と呼ばれたいですか。俳優と呼ばれたいですか」▼性差別をなくしたいという意識から、「女優」という表現は新聞では使いにくく「俳優」と書き換えることが大半である。ご当人はどう考えているか。「俳優と呼ばれたい人もいる。でも私は女優の方がいい」▼『かもめ』のニーナや『奇跡の人』のサリバン先生。女性であることを強く意識した当たり役と活躍した時代に敬意を込め、この肩書をあえて使わせていただく。「女優」の奈良岡朋子さんが亡くなった。九十三歳。「大女優」の肩書の方がふさわしかろう。その人が出演すればそれだけで作品の格が上がる。そんな役者だった▼十八歳で劇団民芸の養成所に入った時、宇野重吉さんに「おまえはお嫁にいっちゃいかん」と言われたそうだ。内心、腹を立てていた奈良岡さんに宇野さんはこう言った。「役者は一声、二振り、三姿。嫁に行くとぬかみそ声になるんだよ」▼今なら問題発言だが、なるほど、そのお声は奈良岡さんの役者としての宝だった。悲しみをこらえる声、朗らかな笑い、怒りの叫び。さまざまな感情を、その声はリアルに観衆に届けることができた▼最新作は『土を喰(く)らう十二カ月』。九十過ぎての出演に驚く。この役者自身もまた「奇跡の人」だろう。