フランスの海洋探検家、ジャック・クストーが長年の冒険の相棒とした調査船の名は「カリプソ号」である。子どものときに見たドキュメンタリー番組が懐かしい▼クストーにあやかろうと宇宙飛行士たちは宇宙船の愛称に「カリプソ号」を選んだ。宇宙船とは国際宇宙ステーション(ISS)にとどまっているボーイング社のスターライナーである。残念だが、クストーの船ほどには役に立たなかったようだ▼2人の飛行士を乗せ、ISSに到着したまではよかったのだが、エンジン周辺に不具合が見つかり、米航空宇宙局(NASA)は2人を乗せて地球へ帰還させるのは危険と最終判断した▼NASAの判断は当然だろう。2003年、スペースシャトル「コロンビア号」が大気圏再突入時に空中分解する悲劇もあった。安全面の問題を指摘する声があったが、これを軽視した結果、事故を招いた。無理は禁物である▼「詩人と哲学者の宇宙飛行士は地球に帰還できない」-。アポロ11号のマイケル・コリンズ飛行士の言葉で宇宙には地球に帰りたくなくなるほど、不思議な魅力があるという▼今回の決定で2人は来年2月に別の宇宙船で帰還することになる。いくら魅力的な宇宙でも1週間程度で帰還するはずが、約8カ月もステーションで足止めとはつらかろう。詩人でも宇宙飛行士でもない身は考えただけでげんなりする。