六年ほど前、近しい人から贈られた沖縄マンゴーの、大粒の
美しすぎた種を、果物皿から鉢に埋め込んだところ、見事に芽を出し、
見事に育ち、窮屈そうになったので、小さな庭に移植しました。
なんとまあ、いよいよ見事にのびのびと両手を拡げて、
大人の背丈一メートルほどにのびました。ここは東京多摩。遠く、
南国沖縄の果て、やんばる生まれは、東京の冬の霜とともに、
ときどきは、愛用の東京牛乳のパックの水を掛けたりして、
今じゃ元気な多摩っこです。柑橘類特有の香りを放つので、青い
大きな幼虫が一匹、二匹、マンゴーの葉を、食べつくした
年もありました。それでも黙って、ちょうちょに育つまで待ちました。
ネットを被せると、飛び立てないので、それはやめます。
自然は共棲の掟を守ります。ちょうちょの幼虫はある日突然、
消えてしまいます。雀よりもっと大きな鳥がやってきて、それとも
小心な人間がやってきて、退治したのかも知れません。
マンゴーは、この地では実を結ばないでしょう。それでもいい。
数日前、あまりにいい香りに促されて、一枝三角フラスコに指しました。
葉を二枚、薄めのモーニングティーに浮けました。ほんの少し
だけ薫ります。思い切って、その葉に数か所だけ鋏をあてました。
見事に、柑橘の香りはカップのティーに移りました。
わたしのティーに銘をつけましょう、≪Ms.Hanna≫
” 心の贅沢。 日常生活を、深呼吸。 寛ぎの時間が蘇る、
心の散歩 ”
私の敬愛する詩人 、長田弘さん の詩集 《小道の収集》
の帯に書かれた文章です。馬場崎 仁 さん装丁の
本を開くと、最初の質問 という文章が、眼に入ります。
”今日、あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、
近かったですか。雲はどんなかたちをしていましたか。風は
どんな匂いがしましたか。あなたにとって、いい一日とはどんな
一日ですか。「ありがとう」という言葉、今日、あなたは口に
しましたか~~~~~」
昨日は、とてもきれいな空の雲に誘われて、界隈の見慣れた
車道を、この詩を想いながらドライブしました。バックミラーを覗く
たびに深く息を吸い込みます。 かつてあれほどに苦しめられた
喘息の発作を、今は懐かしさをこめて振り返り、
この星の美しさを愛でます。
今日も、きれいな空です。ベランダには風が強く吹き込みます。
先ほどまでの雲はもうどこかへ飛んで行ってしまいました。
パソコンの前の ≪小道の収集≫の傍らに My
Ms.Hanna を 引き寄せて、 柑橘の薫りとともに啜ります。
どうぞ、”今日も一日 ありがとう。 いい一日でありますように”