50のひとり言~「りぷる」から~

言葉の刺激が欲しい方へ。亡き父が書きためた「りぷる」(さざ波)を中心に公開します。きっと日常とは違った世界へ。

「ああああお漏らし」・・・

2015-06-20 19:58:00 | 小説
「ああああお漏らし」
「せっかくのお休みなのにねえ、春子、パパはおつかれですって」
妻の道江は夫に信頼、許している声がそれを知らせたものだ。しかしつい忍び足になり、幸男は居間から玄関にでる。追ってきた足音に、妻と子の平穏な平和な響きを感じていた。

(つづき)

幸男が気優しい声を一言放った・・・

2015-06-19 20:15:16 | 小説
幸男が気優しい声を一言放ったと思うと、先に立っていくのだが、握手をするわけでもない彼が理恵には理解できていっている。前のめりになっていく幸男は、この有名人の案内役に徹して岬ホテルまでいくだろう、宇礼市に春の装いを感じるように努めていくばかりの、普通の人を装うばかりの理恵はいる。

(つづく)

予想通り、二十歳当時のあの・・・

2015-06-18 20:00:09 | 小説
予想通り、二十歳当時のあの幸男、宇礼市を去る直前の抱擁に打ちふるえた男である。
「ようこそ」
と幸男が実直に言って、ぺこりと頭を垂れ、夢のようねとマスクの喉で声を押しとどめ、理恵は目にはにかみを装いながら、頭を垂れ、
「お世話になります」
「では」

(つづく)

「幸男さん」・・・

2015-06-17 20:58:18 | 小説
「幸男さん」
と喉にひっかかり、ひたすら佇んだ。ナイーヴなタレントとテレビカメラに向く理恵を想像してしまい、ひたすら佇むことにしていた。するとずんぐりむっくりの幸男が背広姿で、電車の窓に添って男女をかきわけて近づいてくる。

(つづく)

昨日思い描いていた男を、理恵は・・・

2015-06-16 19:52:57 | 小説
昨日思い描いていた男を、理恵は何となく脳裏でくりかえした。デッキにでると電車を離れると、あの世界をどこかに引きずっていなければ心細いのだった。敏彦を引きずっていくことを胸に念を押す理恵で、咳を一つしながら宇礼市に降り立っていったのだ。深紅のバラの紙袋を股の前にし、人待ち顔を意識して佇んでいる。

(つづく)