【MV】フジファブリック 『O.N.E』 -徒然草 第189段の再解釈-
Peanuts Gang Singing "Close To You" by: The Carpenters
yojikとwanda「渋谷25時」
昨年の2月に一度載せたものです。
再掲。
カーコ
三年前まで僕にはカーコという二十違いの従姉がいた。
彼女は痩せてるくせに豪快で、よく笑い泣く女性だった。
いつも会うと「あんたはね、マーブルチョコが好きでね」なんて話になったものだ。
どうやら僕が三歳の時に母親の代役をつとめていたようだ。
そのころ母が肺を壊して一年ほど療養してしていたと父から聞いている。
その間、四人子供がいた我が家ではモーレツ会社員だった父一人では育てるのは無理だろ、ということで一番小さい僕が親戚んちに預けられた。
それがカーコんち。
そのころカーコは二十三歳でアルバイトはしていたけど花嫁修業中の身。
いい実験台ができたと、僕を仮想息子としてもう三歳にもなっていたのにおんぶしたり、だっこしたりしていたらしい。
ときどきイライラして僕の鼻をつまんでいたとの情報は伯母さんから。
まあ、そのときの僕はよく泣く子で、マーブルを握らせればすぐ泣き止んだそうだ。
だからマーブルチョコレート、「好き」になる訳。
それから一年ほど経って僕は親戚の家を追い出されたみたいだけど、そのときカーコは台所で玉ねぎを切っていたとの記録がある。
薄情な奴。
いや、ほんとはその逆。
それから何年もして会ったカーコは何故かさる企業のOLになっていた。
三十六歳、結婚はいつするんだって状況だった。
一年ものあいだ花嫁修業と称して僕を実験台にしたくせに。
ギャラでも請求してやろうかいね。
ギャラと言えばそのころ高校生だった僕を無理やり連れだし、銀座の高級時計店にまで引っ張って行き、どれでも好きなの選べと言ったカーコ、
どうやら、非常に遅い高校の入学祝のつもりだったらしい。
それからまたまた何年もして・・・・、伯父の葬式で会った時、僕のお悔やみに対して自分の父親が亡くなったのにも関わらず、「あんた、マーブルチョコレートまだ好き?」ときたもんだ。・・・・どっかで膝を抱えてたって知ってたんだぞ。
そして・・・・、葬式の後から何故か今度は途切れずにたびたび会うようになった。
大体お街で、その頃には僕はもう結婚していたので、カミさんもつれて来いと命令され、女二人に男一人、月に一度の食事会を強要された。そしていつも財布代わりにされた僕、それってありかぁ?殆どお前ら二人で飲み食いしたくせに。
そんなこんなでずっと付き合いが続き、一番最後に生きているカーコに会ったのは病院の一室で三年前で、やせ衰えて可哀想だったけど、とても綺麗でそれなのに結婚してなくて、「カーコ?」僕が言うと、「マーブルないよ」なんて僕をまだまた子供のような扱いなんかしたりして・・・・。
目が濡れてたなぁ・・・。
病室を出ようとした時、カーコは突然「ところであたしの本当の名前知ってるの?」
「勿論!」
「じゃあ、言ってみてよ」
「かこ、じゃん」
「よしよし、あんたは本当に昔から可愛い息子のようで・・・」
そして、最後にこう言った。
「あたしゃ、あんたが可愛い。だから死んでも生きてゆく」
今、僕はあんたを想い出している。
今日不思議なことがあった。
街中で突然雨が降り出してきて、濡れるのも構わず歩いてたら、後ろから小学校に入ったばかりかな?みたいな女の子がついて来たんだ。
僕が振り返ると、笑いながら自分がさしている赤い傘を手渡そうとする。
「それでは君が濡れるじゃないか」
いらないいらないをすると、
「うちそこ」とすぐ前のとんかつ屋を指した。
僕はそれならいいかと、
「ありがとう。それじゃあ、貸してもらうよ。明日にでも返しに来るからね」
お礼を言った
「うん」
「でも、君は偉いね。大人だってなかなかできないぞ」
「うん、でもママがね、こういうときはそうしなさいって・・」
そうかそうかと僕はそれからバイバイしながら彼女と別れたんだ。
家に帰り、とりあえず傘を乾かそうと玄関先に広げたまま置こうとしたら、傘になんか刺繍がしてあるのが目に入った。
文字?
少し、顔を近づけるとそこにはこうあった。
かこ
あれは偶然?それとも・・・・。
今、あんたを想い出しながら、古い写真を眺めている。三歳の僕と、あんたが写っている。
裏を返してみる。
あんたの筆跡・・・。
マーブルチョコレート
・・・・最後までガキ扱いかよ。
あんたは死んでも生きてんだな。
たまにはカミさんの代わりにカレーでも作るか。
たまねぎをいっぱい使った・・・・・。