からくの一人遊び

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Angel Olsen - Shut Up Kiss Me (Official Video)

2021-06-09 | 小説
Angel Olsen - Shut Up Kiss Me (Official Video)



OAU「Traveler」ケイタイモ 画/監督作



300マイル離れて (リモートMV)  石田ショーキチグループ



Nellie the Milkmaid   Shirley & Dolly Collins




(ちんちくりんNo,27)


 前日に続いて大山さんからまた夕飯に呼ばれた。因みに本日は「すき焼き」ではない。「オムライス」だ。勿論他にも副菜はあって、野菜炒めだとかお新香だとか味噌汁だとか四角のテーブルの上は結構な数の料理が並べられているが、メインは飽くまでも「オムライス」だ。僕はたまに大山さんと食事をともにするが、「オムライス」がテーブルに上がる日は決まっている。年に二回、息子さんの誕生日と命日だった。オムライスが好物だったから、と大山さんはいつか呟いていた。今日、八月六日は息子さんの誕生日になる。
 ごはんを食べ終わってゆったりしていたら、電話のベルがけたたましく鳴った。居間を出た広い座敷のすぐ右手、僕の腰位の整理箪笥の上に電話は在る。大山さんは迷いもなくすっくと立ち上がり、座敷に向かった。ベルの音が止み、しばらくの間「はいはい」という大山さんの応対の声が聴こえ、その後「大丈夫、任せてくださいね。あっ、海人さんに代わりますね」と。ああ、姉貴かと僕は身構え、大山さんは「お姉さんからお電話よ」と電話口まで僕を呼んだ。

 お母さん、最近不安定でね。あちこち電話掛け捲るのよ。

 また?

 そう、時間も関係なく夜中でも掛けてしまうものだから、困ったものよ。

 ああ、だから大家さんにも事前に、か。

 事情知ってもらってるけど、夜中に訳の分からない電話というのはさすがにね。

 うん。

 それよりあんた、先月こっちの教職員試験受けたよね。―ホントにいいの?

 ホントにって・・・。

 姉ちゃんにはあんたが本当になりたいものが違うように感じる。

 いや、そういうことはないけど。

 お母さんだったらいいのよ。あたしのことも。あんたはあんたなんだから・・・。

 姉の言いたいことは分かっている。あんたまで母親の犠牲になることはないのよと言いたいのだ。でも"あのときの"母の表情、言葉を思い出すとどうしても地元で教員になるという選択肢を捨てることが出来ない。それに小説家になりたい、あるいはせめて編集者になりたいという僕の夢にしても焦ってみたものの、今現在何も具体的なものがある訳でもないのだ。ただ、十月に中小の音楽出版社を受ける予定があるだけだ。はっきり言えば自信がない。小説を書き上げたはいいが、あの「呪文」を吹き飛ばすだけの力はなかった。「海人はこの終わり方で救われるのかしら・・・」かほるの言葉が今更のように胸に突き刺さる。いろいろと理屈を付けてみたが、真実はかほるの言う通りかもしれない。僕はただ「救い」を求めているだけの愚図な男なのかもしれない・・・。

 夜中の三時、一階から電話のベルが鳴り響く音が聴こえることはなかった。母は落ち着いたのか。もし今、目の前に母がいるとして、僕が「文章を書いて生きていきたい」とはっきり述べたならば、母はどう答えるだろうか。
コメント
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