Julian Lennon + Dennis DeYoung – “To The Good Old Days” (Official Video)
へび坂/メレンゲ(Minty Fresh Japan Compilation vol.3)
Akino Arai (新居昭乃) - Toki no shirabe (時の調べ)
Sean Lennon & Charlotte Kemp Muhl - Fire Island (Tribute to Adam Schlesinger)
(ちんちくりんNo,32)
「心がのってへんって言ったの、お前、理由、よ~くわかってるやろ?」
「ああ」
僕は苦笑いしながらふとテーブルの端に座っているかほるを見遣った。こちらに顔を向けてはいないが、筆を持っている手が止まっている。さて、決心。
「で、悪いが一週間くれ」
「そんなにかかるんか」
「心をのせるためには、現実の世界でどうしても決着をつけなきゃならないことがあるんだ」
「・・・しゃーないな。ペケつけたの俺やし。印刷の方、斉木には俺から謝っとくわ」
「わりぃ、恩に着るよ」
圭太との話が終わったあと僕は、かほるのところまで戻り隣の席に腰を落とした。すぐに声をかけるのも何だしと、横目で見ているとずうっと呆けた顔をしている。なのでいたずら心から、彼女の手に握られている絵筆を上から抜き取ってみたところ、キッと逆さ八の字になった太い眉とともに大きく見開かれた眼が僕に迫ってきた。「なにか?」
僕はその様子がどうにも可笑しくて、声を殺して笑いながら、かほるの目の前に抜き取ったばかりの絵筆を差し出した。「なにやってたの、何もついてない筆握りしめてさ」、とたんにかほるは顔を赤らめ、それを誤魔化したいためなのか知らぬが、ようやく僕が期待していた質問をしてくれた。「圭太さんはなんて言ったの」
なんて言ったも何もないだろう、と思った。すぐそこで話していたのだから。でも僕はきっとかほるはそう聞いてくるだろうと思っていた。そうきてくれないと困る。かほるから聞いてきてくれないと僕はどう自分から話を切り出していいのか分からない。情けない話だが、かほるの言う通り僕は「救われたい」のかもしれない。そうでなくてはあの小説は書けないし、またあれを結論付けるためには現実と向かい合い、決着をつけるしかない。その上で書くのだ。自分の魂をもって、自分の言葉で、イマジネーションで。
「ありがとう。かほるの言う通りだったよ。俺は自らを救済する」
かほるはキョトンとしてすぐには理解できないようだったが、やがて「救済・・・」と微かな声で呟いたあと、原色の花が大きく開いたような笑みを浮かべ、「いいじゃん、いいじゃん、その意気よ」と僕の肩を叩いた。
へび坂/メレンゲ(Minty Fresh Japan Compilation vol.3)
Akino Arai (新居昭乃) - Toki no shirabe (時の調べ)
Sean Lennon & Charlotte Kemp Muhl - Fire Island (Tribute to Adam Schlesinger)
(ちんちくりんNo,32)
「心がのってへんって言ったの、お前、理由、よ~くわかってるやろ?」
「ああ」
僕は苦笑いしながらふとテーブルの端に座っているかほるを見遣った。こちらに顔を向けてはいないが、筆を持っている手が止まっている。さて、決心。
「で、悪いが一週間くれ」
「そんなにかかるんか」
「心をのせるためには、現実の世界でどうしても決着をつけなきゃならないことがあるんだ」
「・・・しゃーないな。ペケつけたの俺やし。印刷の方、斉木には俺から謝っとくわ」
「わりぃ、恩に着るよ」
圭太との話が終わったあと僕は、かほるのところまで戻り隣の席に腰を落とした。すぐに声をかけるのも何だしと、横目で見ているとずうっと呆けた顔をしている。なのでいたずら心から、彼女の手に握られている絵筆を上から抜き取ってみたところ、キッと逆さ八の字になった太い眉とともに大きく見開かれた眼が僕に迫ってきた。「なにか?」
僕はその様子がどうにも可笑しくて、声を殺して笑いながら、かほるの目の前に抜き取ったばかりの絵筆を差し出した。「なにやってたの、何もついてない筆握りしめてさ」、とたんにかほるは顔を赤らめ、それを誤魔化したいためなのか知らぬが、ようやく僕が期待していた質問をしてくれた。「圭太さんはなんて言ったの」
なんて言ったも何もないだろう、と思った。すぐそこで話していたのだから。でも僕はきっとかほるはそう聞いてくるだろうと思っていた。そうきてくれないと困る。かほるから聞いてきてくれないと僕はどう自分から話を切り出していいのか分からない。情けない話だが、かほるの言う通り僕は「救われたい」のかもしれない。そうでなくてはあの小説は書けないし、またあれを結論付けるためには現実と向かい合い、決着をつけるしかない。その上で書くのだ。自分の魂をもって、自分の言葉で、イマジネーションで。
「ありがとう。かほるの言う通りだったよ。俺は自らを救済する」
かほるはキョトンとしてすぐには理解できないようだったが、やがて「救済・・・」と微かな声で呟いたあと、原色の花が大きく開いたような笑みを浮かべ、「いいじゃん、いいじゃん、その意気よ」と僕の肩を叩いた。