Placebo - Twenty Years (Official Music Video)
み空 金延幸子
3, ゆうづつ歌 Yuudutsu uta (original ) - LUCA
Godley & Creme - Wedding Bells
(ちんちくりんNo,62)
ふーっ。
僕は下宿の自分の部屋に戻って、すぐさまテーブルの横に敷いてある座布団の上に胡坐をかいた。午後四時か。かほるとは浅草橋駅で別れた。別れ際僕は"リジェネレイション"を未だかほるに渡してないことに気づいて、慌てて鞄から取り出し差し出した。かほるは「あら」と微かに声をあげ、何を思ったか、やけににやついて本を手にして上へ下へ、左右にも腕を張り、位置を変えてその本の表紙を眺めていた。それもホームの上で・・・。「なにしてるの」僕が問うと、かほるは、今度は本を抱くようにしてそのまま僕の方を向いた。「だって嬉しいし」嬉しいとそんな所作をするものなのか?僕が戸惑っているとかほるは続けて「ねえ、ずっと欲しかったものを手にするとこうならないの?」体を捻りながら下から僕の顔を覗くように見つめた。余りにしっとりと澄みきったかほるの瞳。ああこの娘の瞳はこんなにも邪心のない純粋さを持っていたのか・・・、僕は思わぬ発見をして感動さえしかねない思いに捉われたのだった。
それにしても・・・。もうひとつ、彼女はこんな言葉を僕に投じた。―明日は駅に迎えに来なくていいよ。先に行って大学の中庭の"あの場所"で待っているから―。あっ、ああと僕は言葉を返せなかったが、"あの場所"とは楓の木を正面にみる"あのテーブル席"だということはすぐに分った。"あの場所"でとわざわざ指定してくることを考えると、"かほるが秘密にしていたこと"は僕が全て受け止めることになるのか。圭太と貢は?僕は何処か複雑な気分になったのだった。
明日のことを考えてもしょうがない。僕は気分を切り替えて鞄からかほるの叔父さん、七瀬社長から貰った名刺を取り出した。龍生書房かあ、実のところ僕はその龍生書房が出している音楽雑誌をよく読んでいた。確か机の下に・・・。僕は四つん這いになり、机のところまで行って椅子を後ろに引き、机の下に潜り込んだ。数冊雑誌が積んである。僕はその内の一番上のものを一冊出してきて、テーブルの前に戻りページを繰った。ジョン・レノンの特集号だった。七瀬裕次郎はそこで独特のジョン・レノン論を展開していた。その中でとても興味深い言葉が幾つも飛び出している。ジョン・レノンの"イマジン"が理想主義だという説には、「理想だからなんだ。理想こそ現実の源である。何故なら理想がなければ、人類は目標を失ってしまう。人類は目標を現実にして進化するもの。ならば理想がなければ、世界がどうなって行ってしまうのかお分かりであろう」と断じている。また"ラヴ&ピース"を掲げているジョンが一方でヨーコに暴力を加えている偽善者である、という件については「それがなんだ。暴力は許されない。絶対にあってはならない。ただ、そういう複雑な二面性があってこその"ラヴ&ピース"であり、それは何ら矛盾しない」と綴っている。
僕は以前から彼の文章が好きだった。理由は色々とあるが、特に弱者が弱者を守るために強者に立ち向かうような、挑戦的な文章が好きだった。この人は小説を書かないのだろうか、とも思ったこともあった。その七瀬裕次郎と一緒に仕事が出来る。ああ、何て幸せなことだろうか、と改めて魂が震えるような喜びが沸き上がった。また、ふと薫りいこのことも頭の中に浮かんだ。まさか、かほるの母親だったとは驚きだった。本当にかほるは話題の絶えない娘だな、とつくづく感じ入ったのだった。
海人さーん、一緒に買い物行ってくれるかしら
階下から大家である大山さんの僕を呼ぶ声が響いた。さて。僕はすっくと立ちあがり、部屋のドアを開けて階段を下りて行った。
み空 金延幸子
3, ゆうづつ歌 Yuudutsu uta (original ) - LUCA
Godley & Creme - Wedding Bells
(ちんちくりんNo,62)
ふーっ。
僕は下宿の自分の部屋に戻って、すぐさまテーブルの横に敷いてある座布団の上に胡坐をかいた。午後四時か。かほるとは浅草橋駅で別れた。別れ際僕は"リジェネレイション"を未だかほるに渡してないことに気づいて、慌てて鞄から取り出し差し出した。かほるは「あら」と微かに声をあげ、何を思ったか、やけににやついて本を手にして上へ下へ、左右にも腕を張り、位置を変えてその本の表紙を眺めていた。それもホームの上で・・・。「なにしてるの」僕が問うと、かほるは、今度は本を抱くようにしてそのまま僕の方を向いた。「だって嬉しいし」嬉しいとそんな所作をするものなのか?僕が戸惑っているとかほるは続けて「ねえ、ずっと欲しかったものを手にするとこうならないの?」体を捻りながら下から僕の顔を覗くように見つめた。余りにしっとりと澄みきったかほるの瞳。ああこの娘の瞳はこんなにも邪心のない純粋さを持っていたのか・・・、僕は思わぬ発見をして感動さえしかねない思いに捉われたのだった。
それにしても・・・。もうひとつ、彼女はこんな言葉を僕に投じた。―明日は駅に迎えに来なくていいよ。先に行って大学の中庭の"あの場所"で待っているから―。あっ、ああと僕は言葉を返せなかったが、"あの場所"とは楓の木を正面にみる"あのテーブル席"だということはすぐに分った。"あの場所"でとわざわざ指定してくることを考えると、"かほるが秘密にしていたこと"は僕が全て受け止めることになるのか。圭太と貢は?僕は何処か複雑な気分になったのだった。
明日のことを考えてもしょうがない。僕は気分を切り替えて鞄からかほるの叔父さん、七瀬社長から貰った名刺を取り出した。龍生書房かあ、実のところ僕はその龍生書房が出している音楽雑誌をよく読んでいた。確か机の下に・・・。僕は四つん這いになり、机のところまで行って椅子を後ろに引き、机の下に潜り込んだ。数冊雑誌が積んである。僕はその内の一番上のものを一冊出してきて、テーブルの前に戻りページを繰った。ジョン・レノンの特集号だった。七瀬裕次郎はそこで独特のジョン・レノン論を展開していた。その中でとても興味深い言葉が幾つも飛び出している。ジョン・レノンの"イマジン"が理想主義だという説には、「理想だからなんだ。理想こそ現実の源である。何故なら理想がなければ、人類は目標を失ってしまう。人類は目標を現実にして進化するもの。ならば理想がなければ、世界がどうなって行ってしまうのかお分かりであろう」と断じている。また"ラヴ&ピース"を掲げているジョンが一方でヨーコに暴力を加えている偽善者である、という件については「それがなんだ。暴力は許されない。絶対にあってはならない。ただ、そういう複雑な二面性があってこその"ラヴ&ピース"であり、それは何ら矛盾しない」と綴っている。
僕は以前から彼の文章が好きだった。理由は色々とあるが、特に弱者が弱者を守るために強者に立ち向かうような、挑戦的な文章が好きだった。この人は小説を書かないのだろうか、とも思ったこともあった。その七瀬裕次郎と一緒に仕事が出来る。ああ、何て幸せなことだろうか、と改めて魂が震えるような喜びが沸き上がった。また、ふと薫りいこのことも頭の中に浮かんだ。まさか、かほるの母親だったとは驚きだった。本当にかほるは話題の絶えない娘だな、とつくづく感じ入ったのだった。
海人さーん、一緒に買い物行ってくれるかしら
階下から大家である大山さんの僕を呼ぶ声が響いた。さて。僕はすっくと立ちあがり、部屋のドアを開けて階段を下りて行った。