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演劇「カミサマの恋」


松江市民劇場9月例会 中ホール 9月21日(金)13:30~15:35
作 畑澤聖悟 演出 丹野郁弓 出演 奈良岡朋子ほか

市民劇場の会員になって8か月、5回目の観劇。この会の仕組みは、日頃見ている映画と比べて、なかなか大変だなあと感じる。公的援助のない中で、市民が月々会費という形で2000円余を出し、会議で企画して劇団を呼ぶのだが、一定の会員がいないと成り立たないので、会員数を維持するために、毎回毎回、「あとOO人必要です」という呼びかけが事務局からメールでやってくる。俳優からも「会員数クリアをよろしく!」という激励が来る。私はポスターを見て自発的に入ったので誰かをリクルートするわけでもない、個人のままでいるのだが、この切迫した指令に触れると、それなりに気がもめる。

昔シリアで飼っていた犬が、私たちが食事の支度をしていると、近くでうろうろしながら心配そうに料理や配膳の進捗状況をうかがっていた。できることなら立ち上がってエプロンをつけて手伝いたいくらいだったろう。なんせ、自分が食事にありつけるかどうかというのは唯一最大の関心事なのだから。なぜか、メールを読む自分の心理状態はあの犬のたたずまいと重なるのである。

「アンナカレーニナ」で書いたように、中央の席にいた私は、両側から人の壁が迫ってきて、その日の体調に加え酸素不足もあって、上演中に咳の発作に襲われてしまった。以来、一番最後に入って端に座ることにしている。すべて班が基本で、個人でいると種々の不利益を被る仕組みの活動だが、どうも私は集団行動が生理的・心理的に苦手なようだ。

市民劇場の運営方針に文句を言うよりは、初めの予定通り1年したら退会しようと思っているが、今回は奈良岡朋子さんの舞台を見ることができて、よかった。

彼女のナレーションが好きだ。淡々としており、どこかの局のアナンサーのように、どの部分にも感情をこめたり、その感情を誇張しないから聞きやすい。

【ここからが本番】

この劇は奈良岡さんのために書かれたそうだ。お父さんの故郷が津軽で、彼女も戦争で疎開した2年間に、津軽弁をマスターしたという。

「カミサマ」というのは、同じ青森でも恐山のイタコとは違う。土地の人はそう呼んでいるのだが、神さまにお伺いを立てながら、家庭内のもめごとなどの解決を図る一種のカウンセラー。劇中にあったが、TVで、行方不明のひとの居場所を当てたりしたというから、霊感占いと言われるものに近いかも。

この「カミサマ」は近隣の家庭の様々なもめごとに、私たちが見てもバランスのとれた裁定を下すので、まるで石坂洋次郎の「石中先生行状記」とか山本周五郎の「青べか物語」とか、井伏鱒二の「本日休診」の、昔の知識人のようだなあと思っていると、その良識の権化のような彼女に過去の秘密があったことがわかる。それは一番最後の相手役のセリフにかかっているようなのだが、残念ながらそこが一部聞き取れず、意味が解らなかった。いったい、何が彼女の秘密だったのかな。

しかし82歳という年齢で2時間余りを演じられる奈良岡さんのすごさは、日頃の節制と訓練と、何より才能のたまものだろうか。津軽の明るさと常識とは、太宰治にも通じるものがあるようだ。
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