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なくした傘が10本に

これは晴雨兼用の60cmの大型傘。かさ張るので2か月たってもまだなくしていない(撮影:5月27日)

毎日新聞にこんな投書を見つけた。(5月28日「みんなの広場」)

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  「自立目指し1人暮らしを決行」

              大学生、溝口あんづ18(北九州市小倉北区)     

 私は注意力が足りないとよく言われます。たびたび迷子になったり忘れ物をしたり遅刻をするからです。地元での進学を考えていましたが、1年間でなくした傘が10本を超えたとき、県外に進学し、自立しようと決めました。(中略)他人から心配されないようしっかりしていきたいです。
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私は途中で思わず笑ったが、読み終って心配になった。

笑ったのは、私もよく忘れ物、落し物をするからだ。なくした傘も年間10本とまでは行かないが、置き忘れに気づき取りに行ったのを加えるとそれ以上になる。似たような人が、しかもまだ若いのにいるものだ、という一部の共感、一部は優越感だろうか。

下線部の、思考の飛躍に笑いを誘われる。もし1年で10本傘をなくしたら、「もの忘れ外来」でも受診するというのが順序だろう。家を出て自立と言う決意がなぜ出てくるのか、100人中99人は理解に苦しむと思う。もっとも、私もそれに似た決意をしているようである。物忘れを前向きに解釈し、パスポートを取ろうとしたこともつい最近ある。

彼女はきっと私と同じあの障害※だと私は思った。だとすればこういう不注意は、生まれながらの脳の構造から来るので、原因は家族への甘えでもしつけの悪さでもない。だから家出をしてもなおらない。ただでさえ多くの点で日常生活に問題をおこし勝ちなのに、決意だけで一人暮しが始められるのだろうか。泳げないのにいきなり海に飛び込むようなものだ。しかもそれは穏やかな凪の海ではなく、時に荒れ狂う世間という海だ。

もうとっくに家を出たので今更言っても遅いかも知れないが、準備として、基本的な家事ー掃除・洗濯・買物・ごみだし・料理というーを練習し、苦にならないように体にしみこませておくことをお薦めする。私自身が18~19歳で家を出たとき、これができずにどれだけ苦労したか。

多分、彼女は不注意という短所にも拘らず大学しかも県外の大学に進学するくらいだから、学力は相応に高いだろう。しかしご飯や味噌汁を作った経験がないのでは、コンビニやスーパーに惣菜がそろい、学生食堂が完備している今日といえども、日々暮らすだけでくたくたになり、経済的にも、心理的にも追い詰められ、肝心の勉学に励む余裕が無くなるかもしれない。

そして彼女は、家族(父母)との関係はどうだったのだろう。多分、こうしたことを何でも話しあえる間柄ではないのではないか。現地や大学でだれか支援してくれる人は見つかっただろうか。彼女はおそらくADHDかAspergerで、はっきり言葉にされないと人の感情がわからず、人間関係を壊すことは得意でも、築くことは苦手だと思うので、社会との仲立ちをするいわば代理人が必要なのに、それを得るという第一歩を踏み出すことがあまりに難しい。かくいう私が同病相憐れむの類で、支援するわけには行かないのに、口先でこのようなことを言うのはどうかと思うが。


※あの障害→「発達障害はじめの一歩」2011-4-3
     →「発達障害に気づかない大人たち」2011-7-26

→「日傘」2010-5-24
→「パスポートを入手」2011-6-13

コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (おキヨ)
2012-06-27 12:15:59
事の成り行きはどうあれ、”1年間でなくした傘が10本をこえた時、県外に進学し、自立しようと・・・”
この発想、というかフレーズはいいですね。〔笑〕

常識に根付いた身内との同居に違和感を感じるタイプかもしれませんね。


センスの良い傘ですこと。。。
私はある化粧品メーカーの景品の傘がどっさりありますから、好みの傘を買ったことがありません〔苦笑〕
 
 
 
Unknown (Bianca)
2012-06-27 12:34:27
おキヨさま
コメント、それから傘へのおほめの言葉ありがとうございます。おキヨ様は物持ちがよさそうですから、こういう忘却族が理解できないのではと思いますが…。常識の大事さは、中年以降にならないとなかなか解りませんよね。自分の「老婆」心からの厭味ったらしい忠告を読み返し、さぞかし各方面の反発を招いているだろうと反省しているところですが、往年の自分がもしこういう否応ない厳しい大人に仕込まれていたら、もっと楽な人生を過ごせたろうにと思うので、逆恨みというところです。
 
 
 
Unknown (桃すけ)
2012-07-03 19:58:24
なくした傘が10本、でこれだけの考察ができるんですね。私も傘はよく失くすし、忘れ物もとても・・。そういうタイプなんだと思っているだけで、何か問題があるとは思っても見ませんでした。家事については、長女ということもあって、手伝わされて普通にはできるのですが、実は、身にしみこませるまでではなかったと、60歳を過ぎて気がついたみたい。長いこと私の日常は仕事で、家事が日常ではなかったので、家事が一日のほとんどをしめるという状態がとても苦になり、それが体調不良の原因だと気がついて、やっと折り合いをつけられるようになったけれど。ほんとうに面倒くさいことの連続ですよね。
センスのいい傘 との感想。私も同感です。
 
 
 
Unknown (Bianca)
2012-07-04 17:47:48
桃すけさま
そうですよね、家事なんてこれまでは自然に代々受け継がれて行くもので、ことさら厳しく仕込むとか何とか言うことではなかったと思うのです。私の同居人などは生まれつきDNAの中に組込まれているのではないかと思うほど、誰にも教えられずに料理洗濯掃除裁縫、屋内の整理などが上手にやれます。私は母自身が家事が苦手で、使用人が常にいて、長女も何も教わらず、次女は料理教室に通って料理を覚えていました。これは特別に変則的だったのではと思います。家事は、男女どちらでも、生きるためには最低の必要条件であり、別にいやいやでも最低限のことができればよしとしましょう。私はその最低限ができなかったのです。桃すけさんの場合、仕事のようには昇進も報酬もなくただ家事だけをやるのでは、生きがいがなく、苦痛そのものになったのでしょうね。この傘は3000円足らずでスーパーで買ったもの、そんなにほめられると恥かしいです。
 
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