映画の感想など・・・基本的にネタばれです。
しづのをだまき
【映画】帰郷
1950年 日本 104分
原作 大佛(おさらぎ)次郎 監督 大庭秀雄
出演 佐分利信 木暮実千代 津島恵子
鑑賞 @松江テルサ
会場の松江駅前テルサは別名・勤労者総合福祉センター。入場料は700円と安いです。
国立東京近代美術館フィルムセンター所蔵の作品だからでしょうか。
監督は「長崎の鐘」(→myblog/06.10.29)「君の名は」の大庭秀雄。原作は連載小説(1948毎日新聞)で、戦後日本の浮薄な世相を、海外から帰国した男性の目を通して批判的に描いたものです。欧米的個人主義に生きる主人公守屋恭吾を、付和雷同型の日本の国民性と対照的に描いています。
また、東京、鎌倉、京都の西芳寺などのロケもあって旅行気分が楽しめます。
(シンガポールやマラッカの場面もありますが、国内か、セットでしょう。)
上映前に、1人の男性が出てきて、木暮実千代を絶賛しました。
なんでも戦争孤児を支援し続けた、人間的に素晴しい女優だとか。
私はてっきり、この作品の主眼は4歳で別れた娘・津島恵子と父・佐分利信の再会と互いの間の愛情だと思っていたのですが。言われて見て、木暮実千代にも注目。女性の生き方としては現代にそぐわず、好ましいタイプではないが、クラクラするような妖艶さはたしかにあると思いました。
しかし、やはり一番胸にせまったのは父と娘の再会シーンで、互いに確信の持てぬまま、言葉のやりとりが続く内、ついに「おとうさま、伴子です」という瞬間に達した時は思わず涙ぐんでしまいました。
脚本は小津作品で知られる池田忠雄だそうで、・・・納得!
ところで、この主人公ですが「Life 天国で君に逢えたら」の主人公とは別の意味で、わがままな生き方をしています。かつて公金費消の罪を被って海軍を辞め、博才一つで海外を渡り歩いているうちに、失踪者として国籍を抹消され、死んだと見なされます。妻は再婚。開戦の時シンガポールにいて、妖しい女宝石商(木暮実千代)の密告で憲兵隊に囚われます。敗戦でようやく故国に帰れるものの、日本社会に復帰する気も無く、事情も許しません。そんな男性を佐分利信が演じると、ダンディの極致に見えてしまうのはどうしたことでしょう。どう考えても、西洋版股旅物で、賞賛すべき要素なんかないのに。1950年、占領下の日本では西欧的な価値万能の風潮があったのか。あの当時の映画は、ちょっとずつ、変なところがあります。
→「白雪先生と子供達」myblog/06.10.12
「帰郷」は1964年、西河克己監督、森雅之・吉永小百合主演で、再映画化されていますが、時所を移してシンガポールがキューバになっており、原作の持つ深みも鋭さも失っているように思えます(未見ですが)
原作「帰郷」大佛次郎(おさらぎじろう)著 新潮文庫1952年初版
1976年41版(定価280円) 購入@1989年1月(3冊200円)
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その罪を許されたいがために、男と娘の再会を取り持ち、そして、自分自身ももう一度、男と一緒に暮らしたいと望んだのだった.
男は軍の公金を使い込み、その穴埋めのために博打に手を出して、すってしまった.他人の罪まで背負い込んだとは言え、男は妻子を捨てて放浪することになった.
女と男の運命を決めるトランプ博打は如何様だった.つまり男は博打で自分の運命を決めたのではない.男の方だって残された余生を女と一緒に暮らしたかったであろうけれど、男はそれを許さなかった.男は自分自身を許さない道を自ら決したのである.
男は何を許さなかったのか?.それは自分の人生を博打に委ねたこと.自分だけならまだしも家族を巻き込み、家族を不幸に陥れたその罪を、彼は許そうとしなかったのである.
自分自身が許されることを望んだ女と、自分自身を許そうとしなかった男.
人生を委ねるような、博打をしてはならない.
気づくのが今日で、お返事が遅くなり申し訳ありません。
小説と映画、どちらをご覧になったのでしょうか?
>人生を委ねるような、博打をしてはならない。
そうですねえ。自ら顧みて忸怩たるものがあります。
大佛次郎の作品、映画では、『雪崩』『宗方姉妹』『花の咲く家』『帰郷』を観ていますが、原作には全く縁がありません.
以前に親会社の若い人と飲みに行ったとき、都会の街中を歩いていて、ふとパチンコ屋が目に留まったので聞いてみました.
「パチンコ、しますか?」
「学生時代にしたけど.仕送りまで一週間有るのに、お金が千円しかなくて.ええい、ままよ.で、すっからかんになって、それで止めました.今はしません」
程度の差こそあれ、誰にでも、こんな想い出が有るのではないでしょうか.
大佛次郎の作品は、何れも金持ちの描かれた作品ばかり.それも半端でないお金持ち.この人は、質的に貧乏には描けない作家だと分りました.
樋口一葉は、『にごりえ』『たけくらべ』どちらも映画を観て、原作を読みたいと思ったのですが、大佛次郎は全く思いませんでした.
先に書いた理由で、興味の沸かない作家なのかもしれません.