映画の感想など・・・基本的にネタばれです。
しづのをだまき
「世界で一番美しい少年」
2021 スウェーデン 原題<The Most Beautiful Boy in the World> 港南台シネサロンにて 監督 クリスティーナ・リンドストローム 出演 ビョルン・アンドレセン 池田理代子 酒井政利
「ベニスに死す」(1971年)の主演ビョルン・アンドレセン(1955~)の過去と現在をドキュメンタリーで見せる。当時をしのび、日本・パリ・やベニスを再訪する。
原題はヴィスコンティ監督がかれを紹介するのに使った言葉。15歳のかげのある美貌が世界を席巻。中でも日本はファンレターの多さで突出していた。池田理代子の「ベルサイユのばら」のオスカーのモデルも彼だったそうだ。日本では歌のレコードも出し、チョコレートCMにも出た。あまりに忙しく夜も眠れぬスケジュールで薬を飲みながらだったとか。最近のロシア少女の例も頭に浮かぶ。美少年の賞味期間は短い。すでに翌年、監督は「年を取り過ぎた」とけなす。
撮影スタッフはほぼ全員ゲイだったそうだが「彼を見るべからず」という監督命令で作品完成までは無事だった。が プレミア上映後は解禁となった。もともとビョルンの生立ちは、父の不在と母の悲劇的な死があり、保護者たる祖母は彼を金儲けに利用し、子供を守る意思も能力もなかった。
「ベニスに死す」は原作も高校生のころに読み、映画も71年から何度か見ている。でも、ベニスの高温多湿のなか、疫病がはやるとか、芸術家の老いの苦しみとか、ファシズム抬頭前夜の重苦しい空気がたちこめていて、小説も映画も好きなタイプではない。ヴィスコンティの利己的で冷酷な面はその後さんざん聞き、パゾリーニのような悲劇的な死はなかったとしても、この映画での言動に今更驚かないが。
はかない美少年が50年後鉄さび色の長いあごひげの老人に変化しても、若くして死んだ母親から生まれ、ここまで生きのびたことは多としたい。
でも日本って変な国だなあ、と思う。酒井政利 も池田理代子も、恬として恥じない風情に、「世界の常識は日本の非常識」と言う言葉が思い浮ぶ。
→「アルトゥーロの島」10-6-24
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