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離れがたき二人

早川書房 2021刊 シモーヌ・ド・ボーヴォワール著 (初出1954) 関口涼子訳

原題《Les Inseparables》

「離れがたき二人」はいつも一緒にいるので教師にそうよばれた。

養女のシルヴィー・ル・ボンによって死後30年以上たってから出版されたこの本。去年の秋、新聞で知り、書店から取り寄せて読んだ。

自伝「娘時代」でおなじみの著者シモーヌとザザの物語。ただ名前はシルヴィーとアンドレに変えてある。

9歳で転校してきたザザは、個性的で才気に溢れ、まじめな優等生だったボーヴォワールにとって一瞬にして憧れと愛情の対象になったが、カトリック信仰とブルジョワ的価値観との葛藤から消耗し、熱病のため21歳で死ぬ。

作家になったボーヴォワールはその後何度も何度も、作品の形でザザをよみがえらせようとしたが、どれにも得心がいかず、自伝「娘時代」に至る。「夜、しばしばザザが私の枕もとに現れた。大きなバラ色の帽子の下のザザの顔色はまっ黄色で、うらめしそうな眼差しでじっと私を見つめた。」事実を表現した後は、ザザは二度と夢に出てこなかった。

この作品は、それ以前の試みのひとつである。自分でも納得いかず、サルトルも価値を認めなかったので出版に至らなかった。が、ボーヴォワールのフェミニズムの出発と作家修業の過程がわかる。

「私たちは、待ち伏せている泥まみれの運命に対してともに闘って来た。ザザの死の代償として私は自分の自由を勝ち得たのだ、と私は思った」「娘時代」の最終部であるが、朝吹登美子の訳文は、ボーヴォワールの一寸かすれた声や性急な語り口まで彷彿とさせる。それになじんだ私は、この本の「ですます調」には不意打ちを食った感がある。このような選択に、どのような必然性があるのか分からない。

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