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映画「召使」

1968 英 原題≪The Servant≫ 原作者 ロビン・モーム 
脚本 ハロルド・ピンター 監督 ジョゼフ・ロージー 
出演 ダーク・ボガード ジェイムズ・フォックス サラ・マイルズ レンタルDVDで



ジョゼフ・ロージーの名前を初めて知ったのはたしか岩波写真文庫※の「戦後のイギリス映画」で。「逢びき」「蜜の味」「長距離走者の孤独」などと共に彼の「召使」「銃殺」が紹介されていた。初めて見たのは「銃殺」だが、背景はぬかるみや土砂降り、2等兵のトム・コートネイの銃殺で終わる(ダーク・ボガードも主演)のだから何とも救いがない。最初がそうだから、これも、おそらく中高年の男2人の気のめいるような物語であろうと思っていた。

 ※これは私の記憶違い、正しくは   
  河出新書写真篇「現代イギリス映画」だった。(19-9-4記)

それから半世紀、ようやくDVD化され、借りて見たら、人物の予想は大きく外れた。従者はダーク・ボガードで変わらないが、主人は金髪の美青年(ジェイムズ・フォックス)だったのだ。「モーリス」にでも出てきそうな二枚目だ。

英国の階級社会を痛烈に批判した作品で、日常生活で何もできない主人が、室内装飾から料理・洗濯・掃除と何でもできる召使に家も人生も乗っ取られてしまうという話だ。

次いで、同性愛の問題。主人も従者も、いかにも異性愛者のようであるが、同性愛を思わせるシーンが多々見られる。(この点で「できごと」と似ている)面接のときの主人の目つきがいやに品定め風でじろじろと見ている(画像1)し。主人が女友だちといちゃついている最中に、従者が間違えたふりをして部屋に入ったりするし、女友だちの贈り物を執拗に室内に飾らないなど、思わず笑ってしまうような、いわば嫁姑のような対立が生じ、ついには従者が勝ってしまうのだ。

ところでサラ・マイルズは従者の女友だちという役柄だが、田舎から出てきて主人の家を引っ掻き回し、高笑いしながら出てゆく。その不作法さは行過ぎにもに思えるのだが、これは当時吹き荒れた若者パワーの影響かもしれない。

ボガードもマイルズも、召使として働くときは洗練された物腰で、非の打ちどころがないのにいったん私生活になると極端に野卑な表情としぐさになる。いわば二重人格ともいえるくらいで、「裏表のある人間」だが、それも一概に非難はできない。従者は給料をもらう立場だから主人に合わせなくてはならないのだ。まるでバイリンガルのような能力を必要とする。その点、裏表のない(なくてもいられる)主人は恵まれた人種である。気高いともいえるかもしれない(「諜報員ブルント」の主人公もそうだった)。一つ間違うと「バカ殿」になるが。単に英国の主従関係だけでなく、職場でも家庭でも、地位と権力の違いのあるところには起きると思う。

ボガードの(表の)言動は「できごと」「愛の嵐」などを思い出させ魅力的である。

原作者ロビン・モームは、サマセット・モームの甥。井上保「モーヴ色の肖像」によるとかれは「モームと私生活」という本を書いているが、その中で叔父に30年仕えた20歳年下の秘書ハクストンとは同性愛であったと述べている。秘書は社交的で洗練された有能な人物だったらしく、「召使」のダーク・ボガードと重なって見える。

→「できごと」 12-8-8
→「諜報員ブルント」12-10-1

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