映画の感想など・・・基本的にネタばれです。
しづのをだまき
映画「キューブリックに愛された男」
2016 イタリア 82分 原題 《S is for Stanley》
監督 アレックス・インファセッリ 出演 エミリオ・ダレッサンドロ
鑑賞 11月21日 午前9時45分より ヒューマントラストシネマ有楽町にて
主人公はスタンリー・キューブリックの専属運転手エミリオ・ダレッサンドロ。優秀な運転技能はあったが映画については趣味も知識もなかったタクシー運転手が、たまたま雪の日に頼まれた巨大オブジェの配達を機にキューブリックの信頼を得てかれが死ぬまでの30年、掛替えのない存在になった様を、彼の実直な語り口で知ることができる。
スタンリー・キューブリック(1928-1999)は「機械仕掛けのオレンジ」「博士の奇妙な愛情」「2001年宇宙の旅」「ロリータ」「突撃」「スパルタクス」「シャイニング」「バリー・リンドン」「アイズ・ワイド・シャット」などの監督。
原題のSとは彼の指示のメモ「食料を買ってきて」とか「電球を替えて」などに添えられたサインでStanleyの頭文字のSである。断簡零墨に至るまで取っておかれたメモからは仕事と日常を問わず頼りにされていたことがわかる。
「魅せられた男」との違いは、キューブリックとその映画自体に魅せられたレオン・ヴィタリと違い、エミリオはキューブリックが何者かを知らなかったこと。引退後、暇ができてはじめてかれの映画を見て「この人は天才だと思った」。だが一番好きなのは「スパルタクス」だと言い、キューブリックに苦虫を噛みつぶしたような顔をさせる。(これは頼まれ仕事で、本人は常日ごろ駄作だと言っていた)イタリアからの移民で、持ち前のイタリア気質で生活が仕事よりも、家族が雇い主よりも大事、つまりは自分自身の軸足がしっかりしていて、キューブリックという台風の渦に巻き込まれても、とことんまでは巻き込まれなかったし、だからこそ、愛されたのだと思う。
キューブリックの遺作「アイズ・ワイド・シャット」で、彼は小さな役(新聞と煙草の店の売り子)をもらっている。「魅せられた男」のヴィタリも、「謎の赤マント」の役で出ている。彼らの何十年という献身への、監督ならではのささやかな贈り物だったのだろう。強面(こわもて)キューブリックの、意外に人間的な細やかさ・人懐つこさに加え、天才の心底に常在する何物にも癒されない孤独に触れたような気がした。
この二人のために「アイズ・ワイド・シャット」を再見したくなった。
→「キューブリックに魅せられた男」19-11-28
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