涼州詞 朗読改訂版
涼州詞 王翰
(書き下し文)
葡萄の美酒 夜光の杯
飲まんと欲すれば 琵琶 馬上に催す
酔うて沙場に臥すとも 君笑うことなかれ
古来 征戦 幾人か回る
(意訳)
葡萄酒が注がれたガラスの盃は
別れの盃。
飲み干そうとすれば、
琵琶が馬上でかき鳴らされる。
酔いつぶれて砂の上に伏したとしても
どうか笑うてくれるな。
昔から、
辺境の地に遠征して帰ってきた者が
どれだけいるというのだ。
(自分も生きて帰ってこられるか
わからない)
涼州とは、シルクロードに沿った
現在の甘粛省武威県あたりの古名であり、
北方民族との前線地であった。
涼州詞は、
辺境地帯の風物や出征兵士の情に題材をとった
辺塞詩というジャンルに含まれる。
出征する者の
悲壮な気持ちを詠じた詩と読み取れるが、
別の見方もある。
「涼州詞」という題の詩は、
王翰以外に何人もの詩人が書いている。
涼州詞という楽曲に詩をつけて歌っていたのだ。
王翰は官吏に登用されたこともある人物だが、
かなりの放蕩者だったという。
(それが悪いとは全く思わない。)
その彼が、
実際に辺境に出征したことなく作った詩である。
詩には、葡萄酒、夜光の杯、琵琶,沙上など
異国情緒あふれる事物が配され、
とてもエキゾチックで洒落た感じがする。
酒宴で歌ったら、
さぞ盛り上がったことだろう。
詩の中では、
一つの言葉に複数の意味を持たせると
表現する世界は広がる。
「琵琶」は楽曲を奏でているのか、
進軍の合図なのか。
「沙上」は文字通り「砂の上」なのか、
それとも「戦場」の意味なのか。
この詩は、万葉集の防人の歌のように
兵士の悲嘆のリアリティを表現するというよりは、
平安貴族が都で、
行ったことのない名所の絵を見て
素晴らしい歌を詠んだのに似ていると思う。
仮に、切実なリアリティがなかったとしても
王翰の「涼州詞」は名作であり、
私の大好きな詩である。
とりわけ「葡萄美酒 夜光盃」
という文字の配置が
素晴らしいと思うのだ。
涼州詞 王翰
(原文、白文)
葡萄美酒夜光杯
欲飲琵琶馬上催
酔臥沙場君莫笑
古来征戦幾人回