いのちの煌めき

誰にだって唯一無二の物語がある。私の心に残る人々と猫の覚え書き。

ブレイクタイム

2023-04-17 01:26:00 | 日記
ブログ開設から1ヶ月を越えました。

はじめは、自分の備忘録のつもりでUPし始めた
文章でした。
続けられるかな…と自分でも半信半疑でしたが、
何とか1ヶ月はいけましたね(笑)

しかも、思いがけず多くの方々に読んで頂き
フォローして下さる方までいて、本当にとても
喜んでいます。
続けて記事をUPしていく、モチベーションにも
なっています。

開設前、どのブログを使おうかな?と少し悩んだのですが(数年前、別のブログを使ったこともあり…)でも今回はgooブログにして良かったと思います。

みなさんのブログも多種多様で、読ませて頂くのもとても楽しみです。

これからも私はここで、ゆっくり更新していこうと
思っています。









ヨンウさん

2023-04-14 17:39:00 | 日記
ヨンウさんは90歳代、女性。身体の麻痺は、ほとんどないが大腿骨骨折の後遺症がある。シルバーカーでの歩行。認知症は中程度から、やや重度に傾いている。在日韓国人でもある。

「キムチを作りたい」とか、ご近所の韓国食材店によく遊びに行っていたとか、そんな話を一日中、繰り返している。
レクリエーションの時、チヂミを上手に作ってくれ、皆さんに振る舞ってくれた。

戦時中だか、戦後だったか、、子どもを背負って闇米を買い出しに行った時、見張りの役人に見つかって、酷い目に合わされそうになったという話しもしてくれた。色々、苦労して来られたみたいだが、あまり多くは語らない。
でも毎夜、ヨンウさんは夢でうなされる。寝入りばなの独語も多い。

ヨンウさんの場合、家族との絆がとても深い。
娘さんは仕事の都合で遠方におられ、あまり訪ねて来られないが、孫娘さんが近くに住んでおられて、足繁く通って来られる。
小さなひ孫さんも交えて3人で、よく近くの銭湯へ行かれたり、食事に出掛けたりもされる。足の弱いヨンウさんを連れだすのは大変だと思うのだが、そんなことは少しも気にしていない。

この家族にとって親や祖母に尽くすのは、当たり前のことのようだ。それは、素直に素晴らしいことだと思う。


文子さん

2023-04-12 03:12:00 | 日記
文子さんは80歳代、女性。透析治療を受けているが、体調はあまり良くない。身体には浮腫があり、顔色も悪い。両手は少し動かせるが、ほとんど寝たきりの状態。

文子さんは昔、水商売で生計をたてていた。バーかクラブか、そういうお店のママさんだった。
ご主人があまり頼りにならなくて、文子さんの収入だけが頼みの綱だった。そこで飲めないお酒を無理やり飲んで、結局こんな身体になってしまった、とよく嘆いていた。
風の噂では、当時の文子さんは面倒見の良い遣り手のママさんだったらしい。ホステスさんも大勢雇っていて、皆に慕われていたとか。

文子さんには、子どもさんが4人いる。長男さんと、娘さんが3人。
私には、文子さんと子どもさん達との関係が、とても印象深かった。

長男さんは50歳位だと思うが、まるで高校生の娘さんのように見える20歳前後の奥さんがいて、その奥さんが10代の時に産んだ小さな子ども(文子さんのお孫さん)がいる。この長男さんの若い奥さんは、かつて文子ママのお店で働いていたホステスさんが産んだ子どもで、親があってないような育ち方をした子だったらしい。それで、文子さんが気に掛けて何くれとなく世話をしていた。自分の家に預かって、ご飯を食べさせたり、寝かせたり、、でも、そうこうしているうちに、文子さんの長男の子どもを孕っていたという。
長男さんには、その頃、別に付き合っていた自分と同年代の恋人もいたが、結局、この若い奥さんと結婚した。ちなみに、長男さんは堅気の仕事ではない。
文子さんは「長男は私に反抗ばかりする。私がやったらいかん、と言う事ばかりするんや。ほんまにアホや」とよく言っていた。しかし、長男さんの子どもみたいな若い奥さんは、文子さんの面倒を一番しっかりみていた。

文子さんの一番下の実の娘さんも、文子さんをよく訪ねて来ていた。この末娘さんは、完全に文子さんに依存していた。
「お母さん、絶対に死なんといて、私、お母さんが死んでしまったら、生きていかれへん」と切実に訴えるように話しているのを聞いた事がある。

この末娘さんには離婚歴があり、鬱の既往歴などもあるらしい。元々、文子さんの家だった所には今、長男さん一家が住んでいる。末娘さんにとっても、そこは実家ということになるのだろうが、文子さんが施設入所した今は、当然、居づらいのだろう。結局、施設にいる文子さんの側にしか、末娘さんの居場所はなかった。しかし、この施設は、面会時間を過ぎると家族であっても、付き添うことは出来ない。夜間、施設の外に出た末娘さんが、ぼんやりと路地に佇んでいる姿を、時々お見かけしたことがある。そして翌朝、またすぐお母さんの所へやって来た。
文子さんは、この末娘さんのことを「この娘は素直ないい子で全然、私に反抗なんかしたことない、ホンマにいい子なんや」と目を細めていた。文子さんにとっての慰めの子は間違いなくこの末娘さんだった。

文子さんはゴットマザーのようだな…と私は感じた。

少なくとも、今ここに書いた3人(長男、長男の嫁、末娘)にとってのモーターの役割を果たしているのは、文子さんに違いない。

長男さんは文子さんの言葉に反抗し、反対に回ることを自分の行動のキッカケにしている。
末娘さんは長男さんとは逆で、文子さんの言葉に従順に従うことを、生きる指針にしている。
長男さんの若い奥さんは、文子さんの孫を産むことで文子さんの本当の娘になりたかったのだろう。

文子さんはもう、完全に寝たきり状態になっているけれど、文子さんという存在を中心に、今でもこの家族は文子さんの周りをクルクル回っている。
ゴットマザーからの言葉をもらうために。


かつ子さん

2023-04-08 21:10:00 | 日記
かつ子さんは70歳代後半、女性。両上下肢に多少の麻痺がある。立位は可能だったり不可能だったり、何と言うか、、かつ子さんの気分次第。ギロリッ…とした目で人を見る。どちらかというと色黒。身体は小ぶりで太っている。
鞠のようにコロっとした掴みどころのない体は、移動移譲介助がしにくい。しかも、かつ子さんはその時々の気分で、わざと体の力を抜いたりする。つまり介護者を戸惑わせ困らせるため、故意に体を脱力させるのだ。不意打ちを喰らって、よろめいたりすれば、「痛いよー!」と間髪入れずに悲鳴を上げる。そうする事で、常に相手より優位に立っていようとする。特に新人職員への当たりはきつい。

言葉で、相手を思い通りに動かすことが、かつ子さんにとっての最重要課題。他人を支配することとコントロールすることに執着している。
そのためには「動かない体」というのは、とても都合がいい。だから、動かせても、動かさない。そして実際、どんどん動かない体になっていく。

最終的にかつ子さんは介護度5になってしまった。普通、介護度5の人の排泄介助はオムツ対応だ。ところが、かつ子さんはポータブルトイレへの移動介助を要求する。私達も出来るだけ、かつ子さんの希望に沿うよう全力でサポートさせてもらうのだが、かつ子さんは介助後、5分も経たないうちに「また、ポータブルに座らせて」という。かつ子さんが就寝している時以外は、そういう事が昼夜を問わず繰り返される。私はかつ子さんがそういう方法で、相手の自分に対する忠誠心のようなものを計っているのではないか?と思った。

支配する人か、支配される側か、、
かつ子さんの人間関係には、その二択しかないのだろう。
思いやりを持って人と接し、信頼しあって、和気藹々と過ごすような関係は、かつ子さんの生活にはない。
それとも、支配者側にいなければ、酷い目にあうと思い込んでいるのだろうか。

私はかつ子さんをポータブルトイレへ移動させながら、いつも、そんなことを考えてしまう。







正さん

2023-04-07 15:07:00 | 日記
正さんは80歳代、男性。若い時、相撲をしていたそうだ。ガッチリした体型をしている。その頃、身体を酷使したからなのか、足や腰の痛みを訴える事が多い。特別な麻痺などはないが、加齢に伴う衰えは見られる。認知症の程度は、中程度くらい。

当初、おしゃべりが好きで、いつもニコニコお話しをしてくれたが、ここ数年の間にめっきり笑顔が見られなくなった。コロナ禍による面会制限や、認知症の進行による症状の変化のせいだろうか。

正さんは、元地方公務員で相撲部の重鎮だったそうだ。数々の戦績を上げ、所謂、スポーツ出世を果たした人だ。昔の公務員には、そういうことが時々あったらしい。そしてそれこそが、正さんの心の拠り所であり、全てだった。

話しの内容はいつだって、自分が相撲でどれほどの功績を上げたかという事と、その事で認められ出世し、時の政治家達とも丁々発止で渡り合う仕事をしてきたという自慢話。その繰り返し。
私達は、そのお話しを「わー、凄いですね!」とヨイショしながら聞く。そうすれば、いつも機嫌よく過ごされる。

奥さんは御健在だが、あまり訪ねて来られない。来ても、必要な物品を置いて、すぐ帰られる。正さんも奥さんや、その他の御家族の話しはあまりされない。元々、家族に対する興味は薄かったのかもしれない。

ところが最近、正さんの相撲話しは、めっきり少なくなってきた。もしかすると、言葉を忘れ始めているのかもしれない。以前のように、言葉がスラスラと出て来ないのだと思う。その変わり、近頃の正さんがする事は、自分が輝いていた時代の写真や雑誌、表彰状などを飾ることだ。
小さな部屋の中いっぱいに広げられた数々の戦利品。すごく執着していると思う。過去の栄光って、いつまでたっても、こんなにも忘れられないものだろうか。

正さんの人生は「何事かを成し遂げた自分」とか、「人々から賞賛され、認められた自分」というプライドに支えられている。

プライドって、何なんだろう。
強さなのか、弱さなのか、、
正さんを見ていると、私は時々わからなくなる。