♪ 下駄を鳴らして 奴が来る~♪ の「奴」だったのがわたくしです。
和気入道は、今を去る30年以上前には東京で生活をしておりまして。まあ、今と変わらず、半端なロックテイスト装束を貫いていきていたんだぜい、と。
夏休みかなんかに実家に戻ったときに、下駄箱に一足の二枚歯の下駄が目に入ったのであります。
それはずうっとずっと下駄箱にあった、誰も履かないというか、親父の下駄なんですけど。我々の親の世代は戦中派なので、ちっちゃい子どもの頃は庶民ほぼ皆が和服だったのでしょうが、経済成長に乗ってどんどん着物を着なくなったのであります。それにつれて下駄なんか履かなくなるわけでして。ムッシュかまやつの歌の歌詞に採用されたのも時代錯誤にインパクトがあるからじゃないかなあ、と。
バブル景気がいよいよ近づいてきた日本経済が世界を席巻していた頃なんですけどね。そんなものを足に通してる男なんぞ見たこともないし、カッコ悪いというか、その頃の表現でいうと「ナウくない」代物であったのです。
それでも何か思うところがあって、若き日の和気入道はその下駄を履いて東京という、古臭い履物が似つかわない都会に舞い戻ったのであります。膝で切りおろしたジーンズにmetalバンドのTシャツを着て、ガランガランと音を鳴らして渋谷の街を闊歩するのは、たいへん気持ちがよかったのを憶えています。ぶっこわれるまで履きつぶしたけど、新たに買うことはありませんでした。かくして、ン十星霜が流れて、今に戻って話が展開されます。
インターネット上のhowtoの浸透はYouTubeによって爆発的なものがあります。投資の仕方、副業での稼ぎ方、掃除の方法、料理、スポーツの技術、車の手入れ、DIY、植物関連、動物関連、着物の着付け、などなどなどなど。「有料級」という枕詞が霞むくらい、お金が取れてた情報が無料で出回っています。和気宅ではその恩恵を多く受け、生活を謳歌しているのでありますが、その一端が多くの家で箪笥ゾンビと化していた着物の復権なのであります。和気入道の場合は親父が生前に商売上のバーターで買ったと思われる、一回も着てねえだろうなあ的な大島紬のアンサンブルとかがありまして。Hard Rock Wake を標榜している和気入道としては、上記の下駄と同様に着物はロック的に考えても最高にカッコいいのであります。なにしろ、男が盆踊りや阿波踊りでもないことろでの和装ってのはインパクトあるんですよ。
ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、リサイクルの着物ってのは日本では最もお買い得度が高い、つまりバカ安なのです。新品でン十万円のものが、未使用でも数千円とか状態が良くなければ数百円でgetできます。普段着としての着物はいいと思いますよ。
和装に勤しむならば、足元もかためる必要があります。愛媛エリアで下駄を製造・直売しているのが、「宮部木履店」なのであります。めちゃくちゃ良くてお気入りになりまた。愛媛は内子町の山間深い工場に直接行くこともあれば、デパートや催事で利用することもあり、間違いなく「和の履物」としては断トツの愛好だったのでありました。
アクシデントとはまさに虚を突かれてしまうことを指示しているのでありまして。
一部報道されましたが、火災によって愛媛が誇るべき工芸が消滅の危機にさらされているのであります。
上記のリンクはEAT愛媛朝日テレビの記事です。
新聞でもかなり詳しく跡追い取材があったりして、一部の客層以外にも関心が広がっているようです。それによると、社長であるお兄さんは引退、弟さんが再建を模索していること、彼が出火時にデパート催事に持って出た商品だけが残ったこと、クラウドファンディングで再建を目指すこと、などが掲載されていたように記憶しています。
和気入道宅でもっともショックを受けていたのは家人でして、普段から愛用しており、下駄で出勤するヘビーユーザーなのであります。すでに何足持ってるんかい! という感じで、修理しながら愛顧しているのであります。
圧倒的な技術力、高級な和装にも釣り合うデザイン性の高さ、豊富なバリエーション、鼻緒の独特のすげ方、宮部さんは購入した商品のメンテもばっちりで、催事のときでも遠慮なく修理依頼ください、と言ってもらっているのです。
微力ながらも応援できることがないか、ネット検索しても現時点ではクラウドファンディング的な情報はヒットしません。
そのとき、去年のことを思い出したのであります。今治の地場産業振興センターの知り合いに連絡。
和 気「「せんいまつり」って今年はやるんですか?」
地場産「やりますよ」
和 気「いつ?」
地場産「来週末」
和 気「チラシあります?」
地場産「まだ出来てないんです。出来たら持っていきます」
和 気「はあ? 来週なんでしょ。ところで下駄屋は出店するの?」
地場産「来ると思いますよ」
ということで、数日後にチラシをいただき、日時を確認。当日は着物を着いて馳せ参じたのであります。
前回は野外のセンターの入口付近だったはず。見当たらないので、かなり焦ってしまい、慌ててホールの中を探してしまいました。
いましたいました宮部(弟)さん。なんか感慨深いものがあります。
なんともいえない色あでやかな工芸品です。しかし、これがすべての在庫なんだそうです。前回、伊予鉄高島屋に出店したときに比べると、明らかにボリュームが落ちています。というか、残り僅かとしか言いようがない。
今回は家人が一足の下駄を修理してもらうのが、第一ミッションです。鼻緒を締めなおしてもらいました。毎度のことですが、無料でのメンテナンスであります。
さらに応援の意味を込めまして、おひとつ新調してもらいます。もちろん、家人用です。和気も一足でも購入したいところですが、男物はすでにsold outなのです。
今回のお買い上げは、和風ではない宮部オリジナルの挑戦的な台に、沖縄のミンサー織りの鼻緒を合わせてみました。
どうですか? 凄みさえ感じますよ。あなたは知らなかったかもしれませんが、日本の、愛媛の民芸芸術、渾身の逸品が厳然と存在しているのであります。そして、絶滅を迎えつつあるのでした。
宮部さんにinterviewさせてもらって、憶えてることを列挙してみましょう。
◎当然、再起は狙っているが、元あったところには工房は再建できないとのこと。さらに山奥に建てることになる。
◎クラウドファンディングは進行しているが、事業計画書の作成などで奮闘中。
◎2022年1月2日の伊予鉄高島屋の初売りに招集されたとのこと。
我々が物色していると、親子孫三代で来た一団が、お孫さん用の下駄をおばあちゃんが所望していました。勝手な王像ですが、我々と同じように宮部木履復活のために応援に駆け付けたのかしら、と思ってしまいました。その様子を民放テレビ局のクルーが撮影してました。やはり、メディアも関心を持ってるようです。
ちょっと冷静に考えてみれば、今の時代では伝統とカテゴライズされる価値がどんどん消滅していっているはずです。それに直面しているサプライヤーとカスタマー、さらにその周辺も、ただ傍観しているだけで無力感を以て受け入れたくない結果を浴びせられることに往々にしてなってしまうのでしょう。
和気入道につきましても、実はまったく同じ状況なのであります。伝統武術に身を置く者として他人事ではないのです。やべえなあ。
しかし。情報やマネーなどが世界的スケールと爆発的なスピード感をもって展開できる現在の状況、個人であっても巨大マスコミと同等の発信源メディアとなれる術を我々は持っています。さあ、まさに映画ストーリーのプロローグが始まりました。どのような関わり方をするのか、できるのか。乞う、ご期待とご協力。
宮部さんのクラウドファウンディング始まりました
https://readyfor.jp/projects/89620
6/20~8/18までです。
伊予銀行もアナウンスしてますよ
https://b2b-ch.infomart.co.jp/news/detail.page?IMNEWS1=3351084
工場は廃校になった小学校を作業場にされているとお聞きしました。
これからもおしゃれな下駄を作ってもらいたいものです。