ケチる貴方 /  石田夏穂

2024年05月28日 | あ行の作家



●ケチる貴方

●その周囲、五十八センチ

二編の物語集。


主人公、佐藤さんはひどい冷えを常に抱えて会社勤めに励んでいます。

冷えの辛さ、どう耐えるか、対処するか、会社での日々と合わせて物語は進んでいきます。
読み手の私も耐えなければなりません。佐藤さんの冷えと佐藤さんの勤める会社に。

ある新聞でこの本が紹介されて、それ以来私の中では「読みたい本ランキング第1位」でした。
しかし、最寄りの図書館にはなく、書店を巡っても出会いはなく、通販で買うしかないか…と思いながらも買わずにあきらめかけていたところ、他県の図書館で出会いました。図書館広域利用で借りることができるのです。ありがたいです。

そんな待ちに待った本だったのに、読んでみたらちょっとシンドイ…。
シンドイから牛歩のような読み進み具合…。
しかも、どんなケチな人が出てくるかとワクワクしていたのに、ケチな人いる?の状態だし。

どうしたものか?
と、読んでいたら、突然読めてきました。

この本、おもしろーい!!

そう、それは佐藤さんの身体に異変が現れだした瞬間。
私の脳内も変わりだしたのです。
そして、あっという間に読了。

でも、何だろうな、すっきりしない。

佐藤さんは自分の体熱を「親切」あるいは「いい人」というお金で買って、結局赤字になって破産してしまった…。

そして、それに誰も気づかない。医者でさえも彼女の冷えを知らない。

いろいろ着込んで、厚着して、その上鎧も身に着けて、武装して、必死に隠して囚われて。
誰にも、触られない心の奥深く。


ひとつの狭い会社の中のもろもろの出来事が、日本という国の中で生きる女性の姿に重なります。
佐藤さんの生きづらさは、日本の女性たちの生きづらさ。
しんしんと冷えてきて。
これから春がくるよ、の冬ではなく、ただただ冬の真っ最中なのでした。
そうして、願うのです。
佐藤さんが、終ぞ手が届かなかったそれに、何とか届きますように。


<本文より>

●ドケチな魂にはドケチな肉体がお似合いなのだ。

●「あたし、寒いの苦手なのよ」





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