●ケチる貴方
●その周囲、五十八センチ
二編の物語集。
主人公、佐藤さんはひどい冷えを常に抱えて会社勤めに励んでいます。
冷えの辛さ、どう耐えるか、対処するか、会社での日々と合わせて物語は進んでいきます。
読み手の私も耐えなければなりません。佐藤さんの冷えと佐藤さんの勤める会社に。
ある新聞でこの本が紹介されて、それ以来私の中では「読みたい本ランキング第1位」でした。
しかし、最寄りの図書館にはなく、書店を巡っても出会いはなく、通販で買うしかないか…と思いながらも買わずにあきらめかけていたところ、他県の図書館で出会いました。図書館広域利用で借りることができるのです。ありがたいです。
そんな待ちに待った本だったのに、読んでみたらちょっとシンドイ…。
シンドイから牛歩のような読み進み具合…。
しかも、どんなケチな人が出てくるかとワクワクしていたのに、ケチな人いる?の状態だし。
どうしたものか?
と、読んでいたら、突然読めてきました。
この本、おもしろーい!!
そう、それは佐藤さんの身体に異変が現れだした瞬間。
私の脳内も変わりだしたのです。
そして、あっという間に読了。
でも、何だろうな、すっきりしない。
佐藤さんは自分の体熱を「親切」あるいは「いい人」というお金で買って、結局赤字になって破産してしまった…。
そして、それに誰も気づかない。医者でさえも彼女の冷えを知らない。
いろいろ着込んで、厚着して、その上鎧も身に着けて、武装して、必死に隠して囚われて。
誰にも、触られない心の奥深く。
ひとつの狭い会社の中のもろもろの出来事が、日本という国の中で生きる女性の姿に重なります。
佐藤さんの生きづらさは、日本の女性たちの生きづらさ。
しんしんと冷えてきて。
これから春がくるよ、の冬ではなく、ただただ冬の真っ最中なのでした。
そうして、願うのです。
佐藤さんが、終ぞ手が届かなかったそれに、何とか届きますように。
<本文より>
●ドケチな魂にはドケチな肉体がお似合いなのだ。
●「あたし、寒いの苦手なのよ」